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卒業後に、2人して怒られた話

卒業式を休んでしまった。
でも卒業証書を取りに高校に行かなければならない。いつ行こう。

式の数日後、同じクラスで唯一親しくしていた友達、みかんちゃんに電話をした。「卒業式休んじゃったけど、どうだった」そんなことを聞きたかったのかな。みかんちゃんから出た言葉は「私も休んだ」。ちょっと意外だったけど「じゃあ、一緒に取りに行こうよ」と弾む声で誘い、日時を決めた。「何着ていく」私が聞いたら「制服でいいんじゃない、高校にいくんだから」とみかんちゃんが言ったのかな、「そうだね」私も賛同、制服を着て行くことが決まった。

駅で待ち合わせ、高校まで歩き、職員室に向かう。担任の先生に声をかけると、椅子に座ったままだったと思うが「おめでとう」と証書を両手で渡してくれた。体育の先生で、この高校の「館ひろし」と呼ばれていたらしい。卒業式前にあった生徒主催のお別れ会の出し物の一つ、スライドショーで知った。カメラ目線の姿と一緒に、ナレーションが流れたのだ。そう呼ばれていたなんて私は知らなかったし、先生とも親しくなかった。今は名前も思い出せないけれど、優しい先生だったと思う。

みかんちゃんも証書を受け取った後だろうか、廊下かどこかで、別の体育の男の先生に呼び止められた。一年生のとき、私達の担任だった須藤先生だ。いかつくて眼鏡をかけた50代ぐらいの人。

「おまえ達、何で制服を着てるんだ。制服っていうのは、この高校の生徒だから着られるんだ。卒業したら着るんじゃない」
怒られたのだ。私達が制服を着ているのを見て。
「私達、卒業証書を取りに来たんです」
そう言い返してくれたのは、みかんちゃんだ。

彼女は一年生の時、何故かこの担任に目をつけられて、窓際の一番前の席で、よく注意を受けていた。大抵、先生が教卓について、帰りの会を始めようとしているのに気づかず、後ろの女子とおしゃべりをしているときだ。「三上、いつまでしゃべってるんだ」そう怒られても「あ、すみません」悪気無く、にこにこした顔で返すもんだから、それが可笑しくて皆が笑うこともあった。

男女ともに好かれ、ムードメーカー的な存在の彼女は私には眩しかったし、途中で演劇部の入部を決めたのも、彼女が居たことが大きい。3年生でまた一緒のクラスになれたのも嬉しかったし、彼女も喜んでくれたけど、本当のところはどうだったんだろう。
   
「そんなの関係ないだろう」
須藤先生は全くこちらの話を聞かず、「おめでとう」の言葉もかけず、私達が謝る感じで、高校を後にした。
「もう、信じられない、ほんと須藤むかつく」  みかんちゃんは怒り狂っていた。もちろん私も。二人で文句をいいながら駅まで歩き、「またあそぼうね」そう言って別れた。

どうして卒業式を休んだのか、今なら少しは言語化できると思うが、みかんちゃんはどうだろう。「何かイヤだったから、めんどくさかったし」そんな事を口にしていた気がするけれど、その言葉の裏にどんな気持ちが隠されていたんだろう。

今度聞いてもいい、それとも何も聞かない方がいいかな。とにかく早く感染症が収まって、また会えるといいね。電車に乗って会いにいくよ。


企画に参加して書きました。たぬきの親子さん、ありがとうございます。

こちらは中学時代を振り返る話です。


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