【雑考】垂直思考と水平思考
水平思考とは、横になって寝ながら考えることではありません。
デ・ボノの「水平思考の世界」(The Use of Lateral Thinking, Penguin 1967)は、水平思考をすっかり有名にしましたね。
【参考図書①】
「水平思考の世界―固定観念がはずれる創造的思考法」デボノ,エドワード(著)藤島みさ子(訳)
【参考記事】
視点を変えること自体は、今までも強調されていました。
これを「水平思考」と名付けたところに視点の良さがあります。
一カ所に穴を掘り進んでいくと、別の場所に穴を掘ることができなくなる。
垂直思考(Vertical Thinking)は、このように同じ穴を深く掘るということであり、水平思考は、別な場所にも穴を掘るという考え方です。
いわば水平思考は、一定の方向に向かったパターンを離れて、別のいくつかのパターンへ移動することを求めます。
頭脳の機能は、垂直思考に傾きがちであるから水平思考が必要となってきます。
動物園のライオンが檻から逃げ出して危険だったら、人間が檻の中に入ればいい。
泥棒が多い国では、泥棒を刑務所に入れるよりは、自分が刑務所に入ればいい。
実際、泥棒対策用の格子をつけた家は、刑務所に見えてくる。
デ・ボノの説明の中で最も有名なのが小石の問題です。
ある商人が金貸しに多額の借金をしていて牢屋に入れられそうになった。
年を取った金貸しは、商人の娘を好きになって取引を申し出た。
袋に白と黒の小石を入れて、娘が白を取ったら借金も全て帳消し。
黒が出たら借金は、帳消しにするが、娘を差し出すという条件だ。
ところが、娘は金貸しがこっそりと黒い小石を二つ入れるのを見てしまう。
垂直思考をする人は、次のような3つの考えをするだろうと思います。
娘は、小石を取るのを拒否すべき。
娘は、袋の中に黒い小石があり、金貸しをイカサマ師として暴露すべき。
娘は、自分の父親が投獄されないように黒い小石を選んで自らを犠牲にすべき。
しかし、1の解決だと父親は投獄されるだろうし、2の解決だと娘の命が危うくなり、3だと金貸しと結婚せざるを得ない。
水平思考ではこうなります。
娘は、袋の小石を取って見せずに、そのまま道路の石の中に紛れさせ、「まあ、分からなくなったわ、でも、残っている石を見れば、私が落とした石が白か黒か分かるわ。」というのである。
私が金貸しだったら、慌てて持っている石を捨ててしまうけど、ね(^^;
これで思い出すのが一休さんのトラ退治です。
「僕が捕まえますから、どうか追い出してください。」というのは、水平思考でなければ生まれてこない発想です。
ジェイムズ・ジョイスのお話にも「悪魔と猫」というのがあって、難所でなかなか橋ができなくて苦しんでいると悪魔が現れて、最初に渡ったものを貢いでくれるなら作ってやる、という取引になるというお話です。
【参考図書②】
「猫と悪魔」ジェイムズ・ジョイス (作)ジェラルド・ローズ (画)丸谷才一(訳)
そして最初に渡ったのは猫だったというオチなんです。
これらが分かれば、次の問題も簡単だと思います(^^)
アラブの王様が二人の息子に財産を分けるといった。
二人で馬を競争して遅く着いた方に財産を分け与えるという。
二人は競争を始めたのだが、熱い砂漠をのろのろと行くのはたまらない。
そこへ賢者がやってきて、二人に知恵を授けた。
すると、二人は慌ててゴールを目指した。
どうしてか?
答えは、馬を取り替えた。
そうすると、早くゴールした方の人間が勝つことになります。
メディア学のマクルーハンも映像的メディアの社会は、垂直思考から水平思考に変化していくと言っていましたね。
水平思考の伝統は彦市、吉四六(きっちょむ)さんや大岡裁き、曽呂利新左衛門などの日本の頓知話に受け継がれています。
西欧では、ヘルメスからティル・オイレンシュピーゲルなどが現れて頓知と愚鈍さで社会の良識を逆撫でしていきます。
これらは破壊と創造のトリックスターと言えます。
「トリックスター」(晶文全書)ポール・ラディン/カール・ケレーニイ/カール・グスタフ・ユング(著)山口昌男(監修、読み手)皆河宗一/高橋英夫/河合隼雄(訳)
さて、この話を友人にしたら「白い石を握って袋の中に手をつっこみ、白い石を出せばいい。」と言っていました(@@)
まあ、あまりいい解決ではありませんが、不可能でもない(^^)
公開の場でもう一度やるべきとか。
顔の白粉を黒い石につけて白くすればいいとか。
いずれにしろ、他の可能性もいろいろと考えることが水平思考であり、頓知であり、頭の柔軟体操ですね。
子供の好きなクイズも水平思考を育てるのに重要です。
例えば、「人が十人乗ったら舟が沈みました。どうしてでしょう?」というのがあって。
答は、「潜水艦だった」というものでありますが、別に潜水艦でなくても他の答をいろいろと考えることができます。
創造性というのは、一つの答を見つけるのではなくて、より多くの答を見つけることです。
生物学者の今西錦司は言っていました。
「真実は、何も一つでなくてええんや!」と(^^)
そう、間違えないで欲しいのは、真実は、人の数だけ存在していて、事実は、ひとつだけだってことですね。
作家の保坂和志が「直」・「並」の思考と言っているのも水平思考・垂直思考と同様のことです。
思考することは、本当はなかなか前に進まないことなんですね^^;
「つまり何が言いたいんだ。」とか「早く結論を言え。」とか。
「もう、本当にじれったいんだから。」とかそいういう考えは、「直」の考え方で、思考することとは別のことだと理解しておいてください。
おかしな例だけれど、麻雀でも将棋でも囲碁でも、強い人ほど、なかなか手<方針>を決めない事実があります。
可能なかぎり方針を曖昧にしてゲームを進行させる。
弱い人は、それに耐えられなくて、すぐに方針を明示する。
明示するとは狭くすることです。
で、「直」でない考え方とは何か?
それを一応、「並(へい)」の考え方と呼ぶことにしておきます。
並列、並置、併存、等々
「併」と書いてもかまわないと思います。
「平」でもかまわない。
「直」のように、スパッとしてなくて、序列もないような意味なら、なんでもかまわない。
いろいろな要素が、あまり脈絡なく頭の中にある状態。
一つの題材について、直ぐに結論を求めない状態。
例えば、以下に示す現在の日本が抱える社会問題について、
貧困
少子高齢化
人口減少社会
年金制度の崩壊
ハラスメント
自殺
老老介護・認認介護
LGBT
待機児童
食料自給率
食品ロス
万引き
ジェンダー格差・男女格差
日本の借金
国民医療費
空き家
人手不足
医師不足
後継者不足
絶滅危惧種
マイクロプラスチック
高齢ドライバー
異常気象
インフラ老朽化
ブラック企業
あおり運転
消滅可能性都市
個人情報の漏洩
異物混入
食品偽装
特殊詐欺
ひきこもり
所得格差
等々、頭の中に並存している状態。
明快さでなく、説明から洩れる不明瞭さに親しみを持つことが、「並」の思考です。
それは思考するというよりも、思考に住むという感じではないかと思います。
最後に、水平思考を高める方法としては、以下の通りです。
①異なる視点で考えてみる
②ほかの思考法と組み合わせる
以下、水平思考と相性のよい主な思考法。
・ロジカルシンキング:筋道を立て、論理を積み上げる思考法。
・クリティカルシンキング:思考の偏りや現状について疑問を持ち、追求する思考法。
③繰り返しトレーニングする
自覚の有無にかかわらず、人はそれぞれ思考のパターンを持っています。
長い年月をかけて身に付けた思考パターンを短期間で変えるのは、簡単ではありません。
そこで、以下のステップのように水平思考につながる思考を繰り返し行い、徐々に自分自身へ浸透させることが必要です。
・問題の整理(何が足りないのか・不満なのか・間違っているのか・偏りはないか)
・現状の理解(なぜ問題が生じているのか・なぜ現状は〇〇なのか)
・ゴール設定(どうなれば問題は解決したといえるのか)
・問題解決法の模索(どうしたら問題は解決できるのか)
④前提を疑ってみる
前提を疑うことは、水平思考を高める上で欠かせない重要なポイントといえます。
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