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【ブックレビュー】杉森くんを殺すには

 中学生向けの読書感想画コンクールの指定図書になった一冊。
 いわゆる児童書である。
 なるほど、確かに読みやすい文体であった。軽い文体に刺激的なタイトルなので、ライトノベルよりの作品かと思ったが、いやいや内容の方は自分と他者、主観や客観と言った普遍的なテーマを扱っていた。

あらすじ

「杉森くんを殺すことにしたの」
高校1年生のヒロは、一大決心をして兄のミトさんに電話をかけた。ヒロは友人の杉森くんを殺すことにしたのだ。そんなヒロにミトさんは「今のうちにやりのこしたことをやっておくこと、裁判所で理由を話すために、どうして杉森くんを殺すことにしたのか、きちんと言葉にしておくこと」という2つの助言をする。具体的な助言に納得したヒロは、ミトさんからのアドバイスをあますことなく実践していくことにするが……。

傷ついた心を、取りもどす物語

Amazonより引用



 それにしても、読書感想画というのは私の時代にはなかったものだ。本を読んでその感想やイメージを絵にする課題なんて、絵の苦手な私からしたら難題そのものである。
 苦手ではあるが面白い試みだと思う。昨今、言語化、言語化と言葉にすることの重要性がしつこいぐらいに説かれている気がするが、学校で教える(推奨する)読書感想「文」なんて、言語化する考え方と言うより型に当てはめる方法論を教えてるだけな気もする。

 まず、その本に出会ったきっかけ(背景)を書き、その本を読んでどう感じたかを書く。そして、本を読んだ後自分がどう変わったかを書くような『型』が存在していると思う。
 本来、感想なんてものは自由なもので、それこそ言語化できないものが残ったりするのがむしろ自然だと思うのだが、この型に当てはまるものが感想だと思わされてる節もある。

 本書の中で、主人公が「杉森くんを殺す理由」を考えるシーンでこんなやりとりがある。

「ヒロは……なんで、杉森くんのことを殺したいの?」
「だって、そうしないと無理だから」
「無理って、なにが?」
「うーんと……」  どうしよう。わからない。
 ここから先は言語化していない。わたしはただ、そうしなきゃと思っただけで。
 でも、そうしなきゃと思ったんなら、なにか理由があるはずだ。がんばれば言語化できそうな理由が。でも、がんばる必要って、そもそもあるのだろうか。なんでもかんでも、言語化しなきゃダメ?

p.94




 本書ではこの「殺す理由」を考えていくことが物語の推進力になっており、その中で人間関係というのが肝の部分になっている。

主観と客観

 哲学でも長年考え抜かれているこのテーマも本書の核である。
 小説ではよくある主人公の一人称視点で物語は進むのだが、周りの登場人物(他者)との認識が少しズレている違和感が序盤にある。
 読者である我々(客観)は、じゃあ主人公(主観)が嘘をついているのかと気になりながらページをめくる。この辺りの手法が上手いなと感じた。

 そしてこの物語の凄いところは、主観客観問題に対して主人公がきちんと終盤に答えを出しているところだ。それは便宜的な答えではあるのだが、この主人公がそう思ったということに説得力があった。

 最後にもう一つ。タイトルからも察せるように本書では『命』についても扱っている。これについてはネタバレにも繋がってしまうので何も書かないが、気になる方は是非読んで欲しい。

終わりに

 道徳の授業が嫌いだった。
 テキストを読んで考えさせるという主旨なのだろうが『答え』というのがすぐに分かったから。
「困った人がいたら助ける」とか「いじめはよくない」とか「多様性を認めよう」とか、その教訓自体に文句はなかったが、最初から『答え』が透けて見えていることに違和感があった。
 そして考えさせるというのも名ばかりで、どんな意見が出ようとも最初からある答えに教師が導いてるように見えたから。

 でも本書をテキストに道徳の授業をやったら面白そうだなと思った。教師も簡単に『答え』というものを出せないだろう。
 そんなことを想像してしまうぐらい、中学生の頃にこの本に出会っていたら、もっと色んなことを感じたんだろうなと思った。

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