ペアリングイベント2024 / 2ndのはなし ⑤
はい。今回、最大限に産みの苦しみを味わわせてくれたカクテル三杯目です。
このセッションイベント、こうでなくちゃなってやつでしたね…作ってる最中はこんな殊勝な事は言えないんだけども。
まずレシピ。
レシピ見るとごくごく普通。
ここから苦労の跡を見せられないのが実に悔しい。
グチはのちに語るとして解説いきましょう。
和菓子は粉山椒を効かせた最中サブレ。
歯触りさっくり最中皮、ポピーシードの胡麻のような散らかり感にアーモンドクリームの油脂感。
そしてクリームに練り込まれた粉山椒が食べる毎にじんわりと現れて形をなしてくる構成。
食べてまずまずの全体像はすぐに描けた。
山椒の金属的なニュアンスに同系統のローズマリー、辛味のリンクは方向性の違う辛味でロウペッパー(生コショウ)。
最中の皮はちょっと口中にへばりつくしアーモンドクリームがある程度の油脂感持っているからソーダで流すのが良かろう、と。
…サラッと思いついたように書いてみたけど、アイデア書きつけたノート見返すとここまででもけっこうなプロセスを踏んでいたようだ。
今となっては割とすんなり辿り着いていたイメージしか残っていないが。
そして、なによりの苦労はここからであった。
キュラソーとビターズの入っていないこのカクテルはとんでもなく決め手に欠ける、ぼんやりとしたものだった。いや、単体でサーブするならそう問題のない出来ではある。が、ペアリングのドリンクとしてサーブするには最後の1ピースが埋められていない印象。
それを探す。たしか残り1週間を切っていた。
メインに使うローズマリーウォッカから、スモーキーなものでまとめられるのでは?とニュアンスある手持ちを片っ端から試したものの、どれもイメージにハマるものがない。
フルーツの皮を削り入れるか、と思うも頭の中でいまいちピンとくるでもなくどうしたものかと唸る日々。迫る締切。
そこでハタと気づいたのだ。「奇を衒うことに意識が行き過ぎている」ということに。
「イベントなのだから特別なモノを」みたいな独りよがりの発想をしようとしているから見つからないのだ。
ちょっと基本に立ち返ることが必要だと感じて頭をリセットした。
必要なのは「合わせるのに最良の一杯を作ること」である。曲芸を見せたいなら他で行えば良い。
そうしてみると視界が開けて冷静に見えた。
再度作ってみて何が足りないかを分析し直してみると全体が飽和している。そこでビターズを加える。これでガイドラインを作った。
フォーカスポイントはポピーシード、アーモンドクリーム、山椒のどれか?
ポイントは山椒だ。
ならばココをリフトアップさせるには何が必要か?同科のものなら繋がる、繋げられるはずだ。
山椒は蜜柑科。
ミカン…ミカンのリキュールはないがオレンジならある。やや強引だが香り的に近似値と言っていい。
ならオレンジキュラソーでいける。香味の重心が下にあるので上に添えられるようなキュラソー。
ルクサルドだ。
こうして何杯か試作し、バランスを調整して納得のいく形でまとめられた。
四日前に辛うじて着地。
なかなか追い詰められた製作でした。
しかもその原因は「自己顕示欲の強さ」と「特別なモノを作らないと」という拗れた強迫観念のミックス。これが発想の邪魔をしていた、なんとも情けないオチです。
別にトリッキーなものを出すのではなく、その場に応じたもの、必要なものを出せば良いのだ。
いつも言っているくせに肝心なところでそれを見失うというのはまだまだ修行か足りていない証拠。
精進します。
ちょっとお寺でも行って坐禅でも組んでこようかしら。もう少し自己を滅する必要があるやも知れぬ。
というわけで次回は最後のモクテル。