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雑詩集

64
詩的で私的なタイムライン。
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【短編創作】祝言

【短編創作】祝言

虫唾がマイクロフォンを伝ってホット・コールド・グラウンドを走る。筆ペンは筆なのかペンなのかはっきりしろ。風に舞うお好み焼きの鰹節か茄子の煮浸しに添える椎茸干しか、先に見つけたいずれかにガラスの靴を落とす養女を託そう。

拝啓 みきちゃん

拝啓 みきちゃん

お天気な午後は 死にたくなってくる
不満はないけど 満たされてもいない

お天気な午後は 出かけたくなるけど
どこへ行くかを 選びきれないのさ

虹は若い子らの 短過ぎるメモリー

お元気でいてと 言わないでいつかは
お元気かなんて わすれてしまうのに

お天気な午後は 死にたくなってくる
陰キャな僕にゃ 露出が過ぎるのさ

君は未来からの 静か過ぎるメロディ

お元気でいてと 言わないでいつかは

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Now Drippin'

Now Drippin'

手をつないでいると、いつも何かを伝えることができる。ぎゅっと握ればいいのだ。それに込められたメッセージは何か。手をつないだ二人にならば、わかるのかもしれない。

魂と聞くと、熱いものを想起する。温度があるイメージだ。滾っている、その温度を隠せずに滲み出て伝わってしまう。そんな、抽出された表情。

やわらかいものは、触れるものの影響を受けやすい。かたいものがやわらかいものにぎゅっと押し付けら

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まわり終えた日常のかたわらで

まわり終えた日常のかたわらで

よく、手が滑って茶わんの類いを割る。

 ばんばん、壊れている、人々のなかにあって。

壊そうなんて意思はないのに

 毎日、だいたい決まったところに出て行って、仕事をする。

そのつもりはないのに、自分のからだの一部がぶつかったり、はたき落としてしまうなんてこともある。

 仕事が終わったら、毎日決まった建物に帰ってくる。

割れてしまう。割ってしまう。

 おおむね

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The Whaling

The Whaling

海は大きい。鯨だって大きいのに、そんな鯨が泳いでも余るくらいに、海は大きい。

大きい鯨の中には、こどもがいる。こどもを宿した鯨とそっくりどころか、その鯨が小さかったときと同じ姿をしている。そのこどもは、その鯨自身なのだ。

海は広い。いや、大きい。大きいから、こどものままじゃ泳ぎきれない。だからこどもは、大きい姿になる。それで、海を泳いでいく。それでも、やっぱり海は広い。いや、大きい。

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旅立つあなたが、くれた餞別。
胸の中に、チャリンとおちた。

「こんな窓口、せいぜい小窓じゃー!!」そう言って彼はスマートフォンをへし折り、どこかへ去って行った。それっきり、彼の姿を見たものはいないという。

蟻塚 〜抜け落ちた3文字〜

蟻塚 〜抜け落ちた3文字〜

時刻は午後4時過ぎくらいだろうか。

閉まっている店が並ぶ。

カウンター席を設えた、大人の遊び場といった雰囲気の、個性的な飲食店がいくつもあった。人の姿はない。

そうした店の中に、いっそう個性的な雰囲気の建物があった。

これを、私の記憶の中で最も近い別のもので言い表すのならば、「蟻塚」だろう。土壁が両側から迫るようにして、訪れる者を奥へと導く通路があった。なぜか私は、吸い込まれるよう

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