The Whaling
海は大きい。鯨だって大きいのに、そんな鯨が泳いでも余るくらいに、海は大きい。
大きい鯨の中には、こどもがいる。こどもを宿した鯨とそっくりどころか、その鯨が小さかったときと同じ姿をしている。そのこどもは、その鯨自身なのだ。
海は広い。いや、大きい。大きいから、こどものままじゃ泳ぎきれない。だからこどもは、大きい姿になる。それで、海を泳いでいく。それでも、やっぱり海は広い。いや、大きい。
鯨はある日、望みを失って座礁した。海岸に横たわって、目を閉じた。しばらくそうしていた。
からだに触れる何かの感触があって、くすぐったくて、鯨は目を覚ました。あたりを見ると、小さな人間たちが集まっていた。鯨を海に戻そうとしているらしい。
だんだんとことが大きくなって、鯨のからだは大きな網ですっぽりと包まれてしまった。それから大きな力で、鯨は海に戻された。大きな力をあやつったのは、人間たちだった。ひとりひとりの人間たちは、小さい。けれど、大きい。鯨はそう思った。
鯨は、また海を泳いでいた。ぼんやりとあてもなく泳いでいた。
鯨は、何かとてつもない衝撃を感じた。こんどは、大きな船と衝突してしまったらしい。気がつくと、あたりを同じようなたくさんの船が取り囲んでいた。
鯨のからだは、またしても網にすっぽりと包まれてしまった。船たちは、鯨をそのまま海の中で引っ張って運んでいった。そしてどこかへ着くと、陸の上に鯨を吊るし上げてしまった。
鯨のからだは、ばらばらになってしまった。細かく細かく、それも人間の口に入るくらいばらばらになってしまった。それで鯨は、この惑星の上のあちらこちらに運ばれていった。ばらばらになって小さくなった鯨は、ようやく広い世界中のあちこちを見ることができたのだ。
ベッドで、ひとりの人間が目を覚ました。窓からは透明な陽が射している。部屋の壁には、洋上を跳ねる大きな鯨のポスターが貼ってあった。人間は、ひとりのこどもだった。やがてむくりと起き出すと、どこかへ出かけて行ってしまった。
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