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書評 犬がいた季節 同世代の追憶と胸苦しいフィクション
五十路のおじさん、ばっどです。
たぶん今後は週一(以下)になりそうだが、旗日ということもあり、比較的新しい本でひとくさり。古い本が続いたんで。
犬がいた季節
伊吹有喜
おりしも文庫版が発売されたばかりらしい。(2024年1月)
舞台は三重県の架空の進学校、八稜高校、通称ハチコー。
主に1980年代終盤から90年代にかけての生徒の悲喜こもごもが、丁寧な筆致で描かれます。どちらかというと「悲」というか、辛い目のエピソードが多め。
タイトルにある「犬」は、偶然学校に迷い込んで、生徒の自主活動で飼われることになったコーシローなる白い犬。
描かれる生徒たちは、コーシローと関わりつつ、こもごもしながら成長し、やがて学び舎を旅立ちます。
著者の筆のキレは、非常に胸苦しいシチュエーションで冴えわたります。
読書の楽しみ?には悲しく辛い疑似体験も含まれると思うんですが、いやこのお話に出てくる状況は、実に胸苦しい。
大人の一歩手前の高校生は、大人の思惑や世の中にいいように振り回されます。でもその中で精いっぱいもがいて、次の段階に進まんとする心持ちは、各章ごとに救いのある読後感をもたらしてくれます。
一章だけ、ちょっと変わったエピソードがあります。
90年代に一つのピークを迎えた「F1」ブームにまつわるオハナシなのですが、この章で描かれるあの時代の高校生モータスポーツ(F1)ファンを取り巻くディテールが、凄くリアルに描かれている!
びっくりするくらいです。
この章の主人公たちの行動は「これは楽しいよな・・・」と思わせるもので、同年代のモータスポーツファンにはゼヒ読んでほしい本でもあります。
若い人にはこれから悩むであろうことの予習として、自分のような中高年であれば、若かりし日の悩みの復習?として考えたり、自分の子供のことを思ったりしたうえで、良い読後感を得られる、読んで損のない本だと思ってます。