針で泡を破る
Noteでは久しぶりです。2か月ほど、ノベルアッププラスというWeb小説投稿サイトでライトノベルを書いていました。せっかくなので、ここでもその紹介記事を書きたいと思います。
エンクロージャとハイパーリンク
前にも言いましたが、プラットフォームを跨いで宣伝するのは、サイト運営側からすれば好ましい動きではありません。実際、多くのWeb小説ライターは、複数のサイトに転載しています。でも僕は、なぜかそれをやる気になりません。
恐らく、僕のその感覚の根底にあるのは、古き良きインターネットに対する郷愁です。それはつまり、ハイパーリンクによってクラスタを超える、開かれた自由な社会に対する憧れのことです。今ではそれぞれのプラットフォームがユーザーを囲い込み、アルゴリズムによって加速したフィルターバブルで思想対立は先鋭化し、各地でポラライゼーションが起こっています。ハイパーリンクは、元々、それに対抗する手段だったはずです。
前回マルクスを引用して左翼ぶっていた僕が、ミリタリーオタク向けの雑誌を出している会社に投稿していることに疑問を持つ人もいるかもしれません。そういう人は、東浩紀が小林よしのりと初めて対談した時に興奮なんかしなかったでしょう。別に偉そうなことを言うつもりはないけれど、越境によってしか何かを変えることはできません。そして、プラットフォームではなく個々人が、そのような行動を起こした方がいいのです。
なめらかな社会とナッジ
鈴木健は、SmartNewsのアメリカ進出時に、右派のリーダーのフィードに左派のニュースを紛れ込ませるようなアルゴリズムを提唱しています。ただ、それはあくまで、プラットフォームのアーキテクチャです。個々人が抵抗できるのは、プラットフォームの選択によってでしかありません。
僕自身もシステムエンジニアではありますが、資本主義ネーション・ステートの中で、アーキテクチャ側の努力のみによってエコーチェンバーを打ち破るのは、困難な戦いなのではないかなあ、と感じることがあります。
似た文脈で、経済学の分野では、キャス・サンスティーンのナッジの概念が有名です。しかし、アーキテクチャによって意思決定を誘導するパターナリズムは、フーコーの言う環境管理型権力の一部であり、真に自由で人間的な啓蒙ではないです。あ、今、嗤いましたね? この暗黒啓蒙の時代に、今さら啓蒙って何のことだよって。そりゃ、sapere aude、敢えて知ることですよ。自立した個々人の自我が、自らの意志で、境界を超えることですよ。理想が引き起こした帰結に対する新反動主義には、僕はまだ乗る気はありません。
越境の効能と解毒作用
実際、Google Analyticsの分析によれば、NoteやQiitaからハイパーリンクを辿って、僕のライトノベルを読んでくれた人がいます。なんというか、僕は素人のくせにハイコンテクストなものを書きたがるので、そのままだと誰も読んでくれず、それぞれの専門分野のタグを付けたブログ記事から流入を狙ったほうがPVが増えるのです。これは、まあ、マーケティング的な下心です。
あと、もう一つ。それぞれのWeb小説投稿サイトでは、交流を促す独自の設計がされています。ノベルアッププラスでは、主にスタンプや単文コメントを投げて交流するのですが、イイネよりも親密でレビューよりも気軽な丁度いい設計になっていて、ハマりやすいんですよ。大手に比べれば小規模なので声をかけてくれる確率も少し高いです。その結果、僕は一種のSNS中毒のような状態になっていました。他の場所に書くことは、そのような中毒を解毒する作用もあります。
ネット上で交流していると痛感しますが、ダンバーの言う通り、人間が仲間だと感じられる数は大脳新皮質の容量によって規定されています。僕は対人能力が低く、親密さと人数の掛け算が実生活を含めた上限を超えたと感じたら、別の場所に行きたくなってしまう。そうやって移動しても関係が残る人は、たぶん本当に仲間だと思いますしね。
リベラル・アイロニストの叛逆
そんなわけで、僕はすぐに転職するし、趣味も変えるし、バラバラの経歴のフラフラした奴ですが、開き直って、その生き方自体が一つの真面目さだとも思っています。なんでしょうね。自由主義と温情主義は、変な奴がいないと両立しないはずなんですよ。僕もまた、偉大な変人たちの後塵を拝するつもりで、真面目な顔で啓蒙について語りながら、別サイトのエロラノベを紹介してみたいと思います。
いちおう、以下の作品たちも、何らかの対立や隔絶を超えようという、この記事と共通したテーマを持っているつもりです。PVもランキングも大したことはないですが、自分なりに楽しんで書いています。そして、この記事にそれを貼ることで、ハイパーリンクという古臭い針を使って、フィルターバブルの泡を破ってみたいな、などと考えているところです。ということで、作品を紹介させてください。
直近の作品紹介
『先輩、やめてください』(3作目、2023/6/17)
「イヤミス短編小説コンテスト」応募作。エロ同人音声の脱構築を目指した変態ミステリで、デリダが引用したパウル・ツェランの詩と、winnyとGitHubとDeepfakeが出てきます。作中のフォルマント解析のコードの一部については、Qiitaの記事で再現を試みました。
『インビンシブル・アンド・インビジブル』(4作目、2023/7/2)
「夏の夜の怪談コンテスト2023」応募作。氷河期(Ice Age)世代のエンジニアの話で、インスパイア元はRadioheadのIdiotequeの歌詞です。主人公は階級対立の両側(both sides)に立つことを試みます。
『方舟オロチ丸』(5作目、2023/7/17)
HJテーマ別長編小説コンテスト「ダンジョンのある世界」応募作。急いで書いたので乱文ですが、トイレ批評VTuberが活躍するラノベで、古事記と日本書記を引用しつつ左翼的理想を掲げた変態性癖ハーレムものという、両陣営どちらからもダメなやつです。平気な方はどうぞ。
もし面白いところがあったら、あちらにアカウント持っている人はスタンプとか投げてくれると嬉しいです。そうすると、僕が再びSNS中毒の沼に落ちてもがく様を観察することができます。
そんな感じで、よろしくお願いいたします!
Image: Adobe Firefly
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