セコムのおにいさん
ある夏の日の午後6時、職場からの帰り道での話をする。
歩いて駅に向かう道中、一人のお爺さんとすれ違った。
そのお爺さんは壁につかまり立ちしていて、
すれ違ったときに、足に力が入っていないのが分かった。
すれ違い後、心配になって振り返ったら、お爺さんは丁度お尻からゆっくり倒れ込んでしまった。
おいおいまじか、と、驚いて駆け戻り声をかけたら、なんだか酒臭い。
なんだ酔っ払いか、と思いつつ、声をかけた以上立ち去れなかった。
段々お爺さんの反応も鈍くなっていった。でもお爺さんの手元にはガラケーのみ。
救急車を呼ぶ?
ただの酔っ払いなら警察?
それともガラケー拝借して誰かに電話する?
悩んだ挙げ句、ガラケーを拝借して電話をしてみたら、
なんとか同居家族のお姉さんに繋がった。
事情を説明したら、家は割と近いのですぐ向かいます、と。
よかったなんとかなりそうだ、と胸をなでおろし、ご家族を待った。
しばらくして、家族の者です、と声がした方を向くと、
そこには肩で息をする女性が立っていた。
え、徒歩?この状況で徒歩できた?
歩いて来られたんですか?と尋ねると
いえ、大変なことが起きたと思って走ってきたんです、と。
いやスピードじゃなくて。
もう仕方ないか、と救急車を呼んで待っている間、
ある一人の若いおにいさんが状況を察して近づいてきて、
向かいの自販機で買ったアクエリをお爺さんに、「これ、飲んでくださいね」と手渡した。
そしてそのまま私の方を向き、
「僕、セコムで働いてるんで、こういうの良くあるんです。アクエリ飲ませてあげてください。
では、僕はこのあと仕事があるのですみません」
と去っていった。
ありがとうございます。とお礼を言いつつ、
セコムで働いていることは割と関係なかったぞ、と心の中でツッコんだ。
そうこうしている間に救急車が到着し、
お爺さんとご家族を見送って私もようやく帰路についた。
それから1週間ほど経った日の朝、会社に向かう途中で
なんだか見覚えのある顔の人とすれ違った。
夜勤終わりのセコムのおにいさんだった。