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文学フリマ東京38で買った本の感想。その2

2024/06/16は文学フリマ岩手9があったようですね。ペンシルビバップは参加していませんが、参加の皆さまは楽しまれたことでしょう。いつかチャンスを見つけて地方文フリも行きたいものです。冷麺が食べたい。

というわけで2024/5/19に開催された文学フリマ東京38で買った本の感想。そろそろ一ヶ月が経ちますが、その2です。

感想その1では下記作品の感想を書かせていただきました。

【C.N.01 cloud_nine series01】著:satori
【独身女の飲食日記】サークル:狐大好き村
【道楽者共ノ招宴】サークル:居酒屋いまさと
【ク・リトル・リトル~深海の影~】サークル:アコンカグア
【第一芸人文芸部 創刊準備二号】

※前書き※
・ネタバレには最大限配慮していますが、中身に触れる部分があります。
・何かあれば感想は削除いたしますので、ご連絡ください。
・サークル名/著者名は敬称略です。
・書影は基本的に読み終えてから撮影しているのでちょっと表紙に開き癖がついていたり、撮影時間や読み終えた場所( 家orカフェ)で見栄えがだいぶ本物と異なりますが許してください。もしくは本の表紙を上手に撮る方法をご存知の方いたら教えてください。


【無題】サークル:ルーセットレ

毎回おもしろい題材で短編小説を書かれているルーセットレさんの新作、今回は表紙に
「No Title」と書かれていて、いったいどんなテーマなんだ? と楽しみに読みました。

『語り継がれない物語』著:杏修羅

一、氷の国
いきなり好みの児童文学風ファンタジー。凍り付いた国、魔法使い、悪い王様、囚われの父親……。少年がひとつと冒険を通じて成長する、王道の冒険もの。短い中に急転直下の展開があって、読んでいて引き込まれます。作中の問いかけに対して主人公が答える「本当のことも大切だよ」が、刺さりました。偽物や優しい嘘や逃げ出したくなる幻想を否定するのではなく、目を背けたくなるような現実も含めて肯定している。この一言は名言だなと感じます。

二、人形の街
人形の街、ぬいぐるみの住人、一見可愛らしいセリフから、なにか不穏な気配を感じるぞ? と思ったらやっぱり不穏な登場人物。ホラーな結末になるのも十分考えられるし、ひどいことになるのかそれとも乗り越えるのか…と、どきどきしながら読みました。

一と二はそれぞれ別の物語でありながら、結末の部分に共通する要素があって、なるほどそれで別作品扱いじゃなくて一、二と連番なのかな、と思っていたら三で合点が行きました。

三、語り継がれない物語

そういうことね! と、一、二、三の繋がりに合点がいきました。一と二の主人公がそれぞれ正しく主人公をするタイプの子供たちで良かったというか「子供時代の自分なら即座にバッドエンドだった」と思うと巻き込まれたのが主人公たちで良かった、と感じます。この「語り継がれない物語」が誰かが本を開くたびに起こっているのかと考えると恐ろしくもありますが、事件と成長は表裏一体ですから、きっと新しい冒険譚が生まれて子供たちが乗り越えているのだと前向きに考えたくなります。同じ題材で何作でも読みたくなるような面白い連作短編でした。

『怠惰』著:堀尾さよ

「先輩」「くるみちゃん」がそれぞれ主人公格として、別々の一人称視点で書かれていますが、何か自分の内側にある「すき」という言葉に適応する感情を徹底して書いているような純文学めいた魅力を感じました。人に対する好き、創作に対する好き、ここまできちんと向き合ったことがあるだろうか? と考えさせられます。当然、私も小説を書くので創作は好きですがこうやって好き、という言葉を徹底して考えただろうか。執筆中に迷いを抱えた主人公が「まぁ、書くしかないってことなんだな」と地の文で気持ちを吐露していますが、これは何気ない言葉ですが創作に迷った時の指針にしたいくらいです。書くしかない。その通りです。私の都合と言いますか、ちょうど本作を読んでいた時に「◯◯の応募用に書いてみようかな……」とか迷っているタイミングだったので絶妙に突き刺さりました。

終わり方も、すごく良い切り方がされていて、きっとこの先にハッピーエンドが待っているはず(そうであってほしい)と思わせてくれる物語でした。

『恋のナイン』著:雪村夏生
煙草と恋愛について書かれた一幕の短編ですが、短い中に含蓄のある言葉が含まれています。

「煙草が簡単にやめられるのなら、この世から煙草はなくなっているよ」当たり前のようにも聞こえるのですが作品を読んでいる最中、「なるほどなー!」と妙に納得しました。事前に恋愛について語られているので、この一文が恋愛にも掛かっているというか、悪いことやダメなことだから人がやめられるならもう煙草はこの世からない、というそういう人の複雑な感情が書かれていてすごく深いんですよね。彼らの関係性についても考えて、そこにも物語がありそうだなと感じさせてくれる作品でした。

【Reスタート】サークル:藍紙の杜

著:伍代祥

主人公はスポーツバイクのインストラクター。実体験に基づいて書かれているのでしょうか? レースの運営側の視点や、そもそもレースに一般参加や講習走という概念も初めて知りました。題材が「ロードバイクの元プロ」という知らない世界なので、もうこれだけで興味がそそられました。

自分が知らないことを知れる、というのは小説の楽しみのひとつだと思いますが、それがただノウハウとして披露されているのではなくて物語として構成されているので、読んでいて退屈しません。自転車に乗っている時の感覚的なリアリティが良くて、特に回想のレースシーンの主人公の心理が最高でした。背負って戦うものがある友人のオグと違い、自分の戦う意義に疑問を感じる主人公の心境がとてもいい。エースではないし1番ではないし、役割はアシストで、勝てそうなんだけど踏み込めない。自転車は好きだし、間違いなく適正もあるけれど、決定的な最後の最後の踏み出しができないという複雑な心理がレースの行動をとおして丁寧に書かれているのがよかったです。そしてそれらの鬱屈したり蓋をしていた部分が物語を通して新たな出発点を与えられるというのが……友情と愛情と、人生の物語で、なるほどタイトル通りのReスタートなんだな、と読み終えたあとの爽快感がありました。

主人公だけではなくて、登場人物たちの新しい関係性のスタートにもなっている、読んで良かったと思わせてくれる気持ちの良い作品でした。

【フィラメントを描く】サークル:感傷リップループ

著:秋助

X (旧Twitter)で毎日140字小説を書かれている秋助さんの作品です。毎日SNSで140字を公開する、それだけでも大変なのに、それがただの140字ではなく物語で、しかもそれがただの物語ではなく面白い作品のだから並大抵のことじゃありません。

制約があっても関係なく面白い物語が作れるのか、もしくは制約があるから創意工夫して面白い物語が作れるのか、いずれにせよ一朝一夕で真似のできない、140字で語られる物語の傑作集です。

限られた文字数で美しい表現、心に突き刺さるような読後感、謎解きのような楽しさ、意味がわかると怖い作品や痛快な社会風刺。命の重さを140文字で読み手に訴えかける作品があったりと、色とりどりの多彩な魅力が詰まっています。次はどういう物語が始まるんだろう、といくらでも読んでいられます。

中身の詳細を書くと初見の楽しさを奪ってしまいかねないのですが、面白い作品の数々の中で特に自分に突き刺さった作品から抜粋して感想を書かせてもらいました。

・ロストカラー
⇒読み終えて、「うわぁ……」と小さな悲鳴がもれました。もしもこれが自分だったら、自分が親だったら、とたくさんの想像が頭を駆け巡ります。でもこういう、フィクションで得られる耐えがたい苦しみの感覚が好きです。それにしても140字という情報量で読者の頭の中にこれだけ物語の広がりを見せられるとは! 「140字を書く」ではなくて「140字の物語を書く」とはこういうことなんだろうな、といきなり圧倒されました。

・ネットクリッター
⇒風刺が効いていて最高です。世の中は獰猛な生き物ばかりだ……こういう、世相を切るシニカルな視点の作品もあるのが多彩だと感じます。社会や世間に対して怒りや悲しみや不条理を感じて、それをそのまま言葉にするのは角が立ちますが、物語に昇華されると自分の中のもやもやしている感情が笑い飛ばせてしまえるような気がします。

・女神の眼鏡
「いいな、ほしいな」と思ったのですが、コメントの部分で飛びついたあさましさを見抜かれいたようで恥ずかしかったです。そうですね、ズルしてはいけません。

・安心安全テレビ
⇒最高に笑えます。文字数の制限があってこんな愉快な物語が書けるなんて! すごいのは、一言も悪いことを書いていないのに社会に対する風刺が完璧にできているところ。風刺ってバランスをとるのに失敗するとただの悪口だったり嫌味になるけれど、社会を腐したり他人を馬鹿にする目的でなくてちゃんと読む側が楽しめるように書いていて、少しも不快に思える要素が出ないのがすごく好きです。テレビの制作に対する皮肉のようでいて、テレビに安心安全を求める視聴者に対するや、もしくは何にでも注意書きを付けないと苦情を垂れる人々への皮肉にも感じられて、色々な方面を斬っているように見えるのに誰ひとり傷つけていない。傑作です。あとに出てくる別作の「昔話論理機構」もおなじような路線でめっちゃ好きです

・くつ屋
⇒言葉遊びのプロフェッショナルエディションとでも言えばいいのでしょうか、「卑屈」「偏屈」など既存の言葉を発想させて、それを物語として完成させているのが流石です。「くつ」のつく言葉、他に何があったかな、と読み終えて考えていました。不靴が売っていたら買いたいのですが……

・潜む
⇒こういう、視点の逆転みたいな物語も好きです。そりゃ〇〇側も騒がれて迷惑だよね……と思います。

・死の部屋
「ホラーか? ホラーか!?」と戦々恐々しながら読み進めて最後に「あったなぁ、PS2の!」と笑いました。

・続・間違い探し

⇒猫の字がゲシュタルト崩壊するまで探しました。「あ一っ、そういうことか!」ってなりました。

・言葉の綾
⇒感想と言いますか共感と言いますか、エレベーターとエスカレーターのように似た意味で混乱する人いますね。言葉で混乱すること、私もよくあります。ここで書かれているのとはちょっと違いますが「春夏秋冬」が「しゅんかしゅうとう」なのか「しゅうかしゅんとう」なのかわからなくなるし「丘陵」「きゅうりょう」なのか「きょうりゅう」なのかわからなくなります。これが感想なのか共感なのかもわからなくなります。

・猫缶
⇒ガチャみたいにSSR三毛猫オスが出るまで回して、いらない猫は売るとか言い出す系tuberが出てくる未来が見えそうで「命の価値とは……」となりました。『猫缶』に限らないですが、140字小説の中には命に対して真摯に向き合って書かれたような傑作がいくつもあって、そういう要素も好きです。「こういう部分が好き」と書く時に必ず他の好きな要素が思い浮かんで、「でも魅力はそれだけじゃないんです」と注釈をつけたくなります。それだけ多彩な作品が詰まっているってことなんですよね。

・お料理戦隊
⇒スポンサー配慮で全員が醤油モチーフなのか、と思ったらまた笑えてきます。こういう、純粋なコメディもまた落差があって秋助さんの140字小説が面白い要素なんだと思いました。前述の「でも魅力はそれだけじゃないんです」に共通しますが、たくさんの要素が入っていて、140字なのに展開もオチも読めないから作品全体の魅力が増しているような気がします。

・完全の代償
「なにか怖いオチが来るのか!?」と思っていたら代償の落差で笑えました。半チャーハン頼んだら完チャーハンが出てきてお得になるのでしょうか(大食漢の発想)

・伝播塔
⇒共感しました。電波を伝播とかけているタイトルも秀逸ですし、実際にSNSでは善意や良い言葉よりも悪意やマイナス感情のほうが伝播しやすくて、見ていてイヤになることってありますからね。「伝播に掻き消される」という表現も、現代をあらわしていてすごく的確な言葉だと感じます。

・掛け惨
「これすごくない!?」と読み終えて興奮しました。最初は普通に140字の物語として読んで、タイトルの意味を考えて、改めて読み直して「そういうことかっ」と気付いて驚きました。物語として完成されているのに、それとは別で文章にこれだけ遊び心を仕込めるなんて最高です。

・ナイトココア
⇒詩的表現の傑作で、宇宙のイメージ図のような美しい景色が浮かんできます。何度も読み返したくなるような美文と言えばいいのか、リラックスできる文章というのがあるんだな、としみじみ感じました。これを寝る前に読んだら穏やかな気持ちで眠れそうです。

・もう一度
⇒ホラーでは? ホラーですね! 前後の物語を考えると怖いし、無限に続く物語の恐ろしい一部を垣間見た気がします。この人たちの物語、どこを切り取って読んでも怖くなりそうで、最高です。

・言の葉の庭
⇒この世界観、最高です。これだけで一本SF小説の大作が書けそうなくらい、140字の中に壮大なSF的世界が潜んでいるのを見られる瞬間でした。

・アトリエライト/想い飾る/フィラメントを描く
⇒本の最後にこの三作、最高に美しい終わり方です。140字の作品で、別々のタイトルですが共通している物語で、主人公の姿も名前も性格も来歴も何も書かれていないのに、人を照らす光になった主人公の生き様が浮かんできました。140字に書かれていないものまで詰め込まれて読者の頭の中に生み出してしまう、これが言葉や文章の力なんだろうなと感じます。ひとつひとつすべては独立しているのだけど本の題にした「フィラメントを描く」を最後にもってくるという、独立していたものがひとつに重なって、壮大な映画のラストシーンのように心に残る感動でした。


【幻想十二景】著:霜月透子

「祈願成就」でnote創作大賞2023を受賞された霜月透子さんの作品集です。
「祈願成就」の公式ページはこちらです。↓


幻想十二景」は、幻想の言葉に偽りないファンタジー色にあふれた傑作短編集でした。各作品の表紙に月の和名が書かれていて、1~12でそれぞれ対応する季節になっているんですね。どの作品も設定が練られていて、他では見られない独自の発想で練られた世界観が書かれていました。作品を構成するファンタジーのアイディアにまず圧倒されるのですが、その発想が思いつくまま書かれているのではなく面白い物語に昇華されているのが本当にすごいところ。何より文章の求心力が強く、一度掴まれたら引きずり込まれます。「謎」という言葉は適切ではないかも知れませんが、作品を読んでいると何かが隠されているのを感じるのに、いざ読み進めるとまだ簡単には明かされなくて「何かがあるぞこの物語は」と感じてどの作品も読み始めると手が止まりません。結末までたどり着いた時に「隠れていたのはこれだったのか!」と喜びを感じさせてくれる面白さがあります。どれを読んでもどういう結末になるのかなとワクワクさせてくれました。

ゾッとするようなホラーに感動の物語まで、短編なのにこちらの予想する終わり方を上回るすごい短編がいくつも入っています。結末の衝撃度が強い作品について「〇〇だと思っていた□□だった」と感想を書くだけでもネタバレになるので避けたいところではありますが、ちょっと以下の3作は極力ネタバレしないようにするので語らせてください。

『走錨』
「祈願成就」を読んだときにも感じたのですが「怖いから面白い」ではなくて「怖い、でも面白い」と読み終えたあとの面白さが上回ってくる作品です。読んでいて、何かが起こっているのは間違いないのだけど、何が起こっているのかはわからない。霧の向こうに見え隠れするような物語の謎に引っ張られて読み進めて、最後の結末で「そういうことだったのか!」とぞわぞわしました。すごく面白かったです。ホラー、ずっと苦手だと思っていたのですがもしかしたら好きかも知れない、と改めて感じさせてくれた一作でした。

『星合』
あれだけの美しい描写と設定からこの結末につながるとは! 本当にありそうな田舎の描写で、地元の人には大切にされているけれど若者は重視していない、わざわざそのために帰ってこないとか会話のリアルさから「精霊流しみたいに星合という言葉の風習は本当にあるのかな?」と感じながら読んでいました。いざ星合が始まって、なるほどこれはフィクションか、でもなんて救いがあって幻想的な風習なんだろう、選ばれなかった人生の自分と手を取って、これが本当にあったらたくさんの人が救われるな、……と思いながら読み進めました。物語を読んでいると「こういう展開になるのかな」と結末を思い浮かべることは誰でもあると思うのですが、「序盤にあった夫の云々が伏線で、選択し直して救われる話なのかな」とぼんやり考えながら読んでいたら、まさかこういう結末になるとは! 景色に見とれていたら崖から落ちた、ような衝撃です。他の作品も結末が予測できないものが多かったですがそれにしてもこの作品は衝撃を二重で感じました。最後の一文! 最後の一文なしでも怖いですが、あの一文で「後悔してやり直しにきた可能性もある」という希望(?)も粉砕されました。いったいどれだけの思いを抱えて田舎に戻って来たのか、考えるとゾクゾクしますね。一度の短編で二度も衝撃を受けるなんて! と、嬉しい驚きでした。

『魂呼』
もしも運転していたのが自分なら、助手席にいたのが自分なら……と色々と想像してしまいます。終わり間際で「あ、そうか〇〇〇いたのは□□だったのか」とまんまと引っ掛かりました。引っ掛かりましたが、それが読者を引っ掛けるためのミスリードではなくて、魅力的な物語を、最後まで読者を楽しませるために一つひねりを加えて何段階も面白さを足しているように感じました。短編にこれだけの魅力を詰めて書き切れる筆力に脱帽です。発想、物語、文章、結末とホントにどの作品も高い次元でまとまっていましたが、中でもこの『魂呼』は幻想十二景という題のラストに相応しい感動の一作でした。

【いつか、羽ばたく日まで】著:s.satori


最後は「文学フリマで買った本」ではなく、文学フリマでいただいた本ですが、感想その1で書かせてもらった佐鳥理さんの作品(著者名の表記は冊子に合わせています)

「感想のトリを飾るのは鳥小説です」と書きたいがためにラストに回させていただいたことを正直に書くべきなのかまだ迷っています。

それでは作品の感想ですが、読み終えてまず「いい話だなぁ!」と、ジーンとしました。小学生の主人公たちの、成長の物語が丁寧に書かれています。中でも、すごく良いなと感じたのは、子供たちの成長のためにカラスを悪役にしていない点でした。

作中で主人公たちは、カルガモの卵をカラスから守ろうとしますが、カルガモに詳しいおじさんには「ほうっておけ」と言われてしまい、守りきる方法がなくてカラスに奪われます。一見すると無情でカラスが悪役にも思えますが、カラスだって自分のひなを育てるためにエサを探すしかなくて、もしも卵を守ったところで主人公たちには何もできない(保護に許可が必要・孵化に機器が必要・飼育に知識が必要)と感情ではなく現実に即した正しい理由で、卵は守れないのだと説明されます。ここが、フィクションの舞台装置としてカラスやカルガモを選択したのではなく、きちんと野鳥に対するリスペクトがあって書かれた物語だと感じさせてくれました。鳥に対する深い洞察がなければ書けない作品だなと思います。

自分がおじさんの立場だったらウソで濁してしまいそうですが、おじさんはそんなことをせずキチンと主人公に説明をします。子供扱いせずちゃんと説明をしたことが主人公の成長につながる。簡単な答えがないから自分の頭で考えなければいけない課題が主人公たちに与えられて、それを自発的に乗り越えようとする姿勢がすごくいい。

舞台となる公園で野鳥のエサやりが禁止されているので、作中でエサを与える女性はルールを破る側ですが、カラスだけじゃなくこの女性も悪役にしていないのもいい。誰もが悪意で敵対するのではなく、善意から出た行動同士でも摩擦によって対立が生まれるというリアルが書かれています。人がエサをやれば死ぬ雛は減りますが生態系は崩れるし、逆にカルガモが集まりすぎたり親鳥がエサに夢中になることで危険になる雛がいたりと、エサやりが何故ダメなのかがしっかりと伝わるように書かれています。「ルールだから、駄目だから、したがえ」とつっぱねるのではなくて、主人公たちはきちんと自分たちで観察(←ここが特に重要! 自分たちの感覚で理解を深めている!)して、調べたことをまとめあげた新聞をつくり、それをもって「なぜエサやりはだめなのか」を理由を伝えて説得する。大人でさえ難しいことを小学生の主人公が立派にやり遂げる。「子供はこうやって成長していくんだな」と、自分の子と重ねあわせて感動しました。親になってからというもの子供の成長譚にはすっかり弱いです。とても爽やかで読み応えのある物語でした。



以上、文学フリマで買った本の感想その2でした。

過去に買った本や、文学フリマ以外で買った本も感想を書きたいので、またそのうちに更新しようと思います。

とかいって去年は結局noteをほとんど更新しなかったのですが、今年はちゃんと更新します。

とかいって今年もそろそろ半分しかないですが、下半期はちゃんと更新します!

これからも東武とペンシルビバップをよろしくお願いします。

文学フリマ










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また新しい山に登ります。

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