【モルゲンロートが見たい(山エッセイ)】
朝日が山頂を照らして赤く染まる現象をモルゲンロートと呼ぶ。もともとはドイツ語で「朝焼け」という意味の言葉で、それがいつの間にか登山用語として日本で定着したらしい。
言葉について面白いと感じるのは、語源や使われるようになった経緯や推移がはっきりわからないこと。「山が朝日で赤く染まる現象」としてはドイツ語で「アルペングリューエン」という別の言葉がある。
それでも日本で定着したのは「モルゲンロート」。
荷物を入れて背負う袋を「リュックサック」と言うけれど登山で荷物を運ぶ時は「ザック」と呼ばれる。どちらもドイツ語のRucksackが語源でどちらも同じ物を指す言葉なのに使い方が違う。ザックを英語で言うならバックパックだろうけど荷物を背負って歩く登山家をバックパッカーとは言わない。街を朝日が照らすのは「朝焼け」だけど山肌を照らすのは「モルゲンロート」になる。ともかくモルゲンロートが見たい。
過去のテント泊はすべて天気に恵まれず、残念ながら一度としてモルゲンロートは見られていない。天候という機会を待つにはまず山の中で宿泊をしなければならないから、日帰り登山がメインの山男としてはチャンスを得るのが難しい。
ただ、近い現象を一度だけ見た。
朝、まだ日が昇るよりも早く電車で登山口に向かったときのこと。山に囲まれた土地だから朝日は差しておらず、まだ薄暗がりの中だった。山に向かって歩いていると駐車場のあたりで見た山がちょうど朝日に照らされていた。
これもモルゲンロートと呼ぶのかどうかはさておいて、今はこれで満足しておこう。いつか理想のモルゲンロートを見るまでは。
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また新しい山に登ります。