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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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本屋大賞2023

同僚たちとまわし読みしてランキング予想をした。ノミネート作を全部読んだ。

共通して、凪ぐねぇ。
共通して、そしてこの人には勝てない(何で?)(人生部門で)という登場人物がいた。
本同士の連帯があるということが、通して読んだことでわかる。
読んだ順。

『方舟』夕木春央

イヤミスど真ん中すぎてにこにこしちゃう。小五郎風くんへの頼もしさがずたずたに崩れる様が圧巻。ホワイダニットがおそろしく濃い。女性性の気持ち悪さが出てる!(女性だから今ギリギリそんなこと言えるのかもしれない)あとがきがないことで、本文だけを読んであれこれ思うことができるのは、比較的今と並んで歩いている感覚に近い単行本を読んだときならではだと思う。

『汝、星のごとく』凪良ゆう

品のいい携帯小説くらいに思っていた。‘凪’という言葉の意味と、作者に及ぼしている範囲の大きさを初めて知りました。海と人生が連動している。29歳(精神年齢はもっと幼い自負あり)の私に相応な内容だと感じた。自立と毒親その他社会テーマが堂々と打ち出されているのだけれど、凪良さんが本当に書きたいことはどれなのか気になった。でもそれをここまで明瞭に書く難しさを私はまだ知らない。プロローグとエピローグが納得のすっきりとした首尾一貫具合だった。読み返した。

『君のクイズ』小川哲

サイン本であること、伊坂幸太郎が書いた帯、洒落た装丁に惹かれまんまと購入した。冒頭で(なんなら帯で、あらすじで)明確に掲げられた謎はできれば読まれず「納得がくるかどうか」一点にかかっていると思う。完全に客として読むことができた。今まで全然関心を寄せてこなかったクイズは、実は生き物だった。世界史、苦手だったなぁ。カタカナ覚えの苦手さのスタートはここだった気がするなぁ。雑学と言ってはあまりに失礼だろう。海と人生。クイズと人生。クイズを通した世界との関わり方が軽やかに描かれている。種明かしにも、ふた通りの答えにも、納得がきた。

『♯真相をお話しします』結城真一郎

不穏な装丁・評判から期待値が爆上がりしていた。朝井リョウ『世にも奇妙な君物語』、百田尚樹『幸福な生活』同様の記憶に残らなさだが建て付けに無理のない、納得読み易ミステリではあった。私が思い描くほど大袈裟ではないけれど、抜かりのないほんの少しの、しかし確実なずれが、物語の破綻しなさと面白さを保証して、読み手の信頼度をあげるのかも知れない。

『川のほとりに立つ者は』寺地はるな

文体がやわらかにひらかれている。声が傷口で喩えられている。砂の匂いがすることとしないこと。外なる松木と内なるいっちゃん。揚げ物をひっくり返したら黄金になること。自分の中にあるせまい川をふたつに分断させないでいよう。平面じゃなく立体だ。きっと上流と下流では白と黒にはとどまらない濃淡がついているし、形も定まらないでいるのだろう。私の体が思考するために、タイダイ柄の底をした、壊れかけの流しそうめん器の水は、この本を読んで私が微かに認識できるようになるずっと前から波打っていたのだ。

『光のとこにいてね』一穂ミチ

文芸誌の第一話を除き『スモールワールズ』の文庫化を心待ちにしていたくらいで、小説一本を読んだことはなかった。すごいという予感はしていた。題の「とこ」という幼さといい、奇をてらう手前の芯にせまる特異なオノマトペといい、この人の言葉の取り扱い方が好きだ。単純にいいか悪いかで登場人物を選り分けていくのはもうやめだ。団地が近くにあった住まい、中高一貫女子高、年齢、職種、人間への強烈な憧れ、音楽室でのカノンと空間のみに特化すれば自分の輪郭と、かなり近いところに重なっていく。昼ドラ‘牡丹と薔薇’当時は断罪された。今なら?

『爆弾』呉勝浩

映画化されそうな半重厚ミステリでした。序盤の沙良と矢吹のやり取りは森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』のようなライトノベルよりの手つきがあって気恥ずかしかった。共感性が抜け落ちた類家のような人間が正義の側についていると、それは魅力につながるものなのだなぁ。劇場型犯罪への皮肉と石川啄木の一編が私の中で重要だ。私なら15分以上覚えていて欲しいと願ってしまうし、不謹慎な囚人は確実に私の心の中にいるから。大きなニュースがあったときに、職場でいつもはつかないテレビがついて、それを黙って眺める数分間、同じ方向を向いているあの連帯のことを思い出すんだよね。

『月の立つ林で』青山美智子

月と潮の満ち引きの関係って本物なんだ。見えないけどちゃんとあるものとの距離を、ただ思うことができるようになる。たくさんの答えをもっている人だけがその示唆をこんなふうに一冊の本にして提供することができるのだ。月と人生とのかかわりが数えきれないほどつづられるのだけれど、月を腹に入れるところはもちろん、義息子との月キャッチボールは上手すぎる。バイクイジリ・オキナが可愛らしくて仕方なかった。夜風にかわいいをもう一つ足したら純文学で、エンタメ畑との境目がかなり濃く見えた気がした。サクが眩しすぎる。タケトリラジオが聴きたい。

『宙ごはん』町田そのこ

家族の鎖ってグロテスクだ。まったく教師の扱いはひどいものだし、ママはえーんえんするし、これが現実にちゃんとあるなんて、やっぱりグロテスクだ。食を扱ったほっこりほくほくストーリーかと思えば全くそうじゃない。私は『リトルフォレスト』という映画が、軽んじる気持ちなどひとたまりもなく一番に好きだが、この本に関しては装丁から料理っていいよものだと舐めていた。痛いけれど現実の示唆に満ちていて、どの章にも同じようにじんわりと感情の波が押し寄せてくる。ずるいことも曖昧なこともなく、これが小説だ。

『ラブカは静かに弓を持つ』安壇美緒

聴かせるときの窓の話を覚えておきたい。音楽ものの冗長になりがちな演奏、会話、そして情景描写のバランスがとれている。涙が突然と、淡々と、自然なものだったのが良かった。共感した台詞は‘同じように失われる’‘自身の連続性を確かめるために’‘時間は逆行を許さない’です。浅葉がコンクールにもっと進んだら、橘がもっと簡単に許されるところまで描かれてしまっていたら、私はこの本に寄り添われた気がしなかっただろう。想像は厳かな行為だ。全てはほとんど0から、作者の選択によって作られていく。不必要な人間はいた?タイトルと装丁はこれが良い?

読んでほしい なぜなら私が 好きだから
ランキング

1 『宙ごはん』町田そのこ
2 『月の立つ林で』青山美智子
3 『光のとこにいてね』一穂ミチ
4 『ラブカは静かに弓を持つ』安壇美緒
5 『#真相をお話しします』結城真一郎
6 『方舟』夕木春央
7 『川のほとりに立つ者は』寺地はるな
8 『汝、星のごとく』凪良ゆう
9 『爆弾』呉勝浩
10『君のクイズ』小川哲

方舟がとりそうだ。

人に本を借りるということについて、懐かしさを感じずにはおれない。そこには(借りるくらいだからほとんど必ず)好意的に思う人間の匂い、ページやカバーの痛み具合が伴っているんだった。必ずお菓子を添えて返してくれる先輩や、私とはまるで好みの違う友達と、多少の気を遣いながらぎこちなくああでもないこうでもないと読んだ感想についてやり取りをしたことは、大袈裟でなく毎日を過ごしてきて、くよくよばちばちと過ごしたその毎日がよかったと思えたことの一つだ。
今日からがそれぞれの、私たちの春です。

#本屋大賞 #ネタバレ

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