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薊詩乃の短編

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薊詩乃の書いた短編小説やそれに準ずる文章のまとめです。 気ままに書いて気ままに更新していきます。
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記事一覧

Violence, Venus & Vanitas【ショートショート】

 苛々する──  男は眠れなかった。被害妄想のためであった。しかしそれは現実に即した被害…

1

自殺したのもあたしじゃないよ【ショートショート】

 歩道でカラスが蝉を食んでいた。夕方でもこの時期は暑くて嫌になる。  地雷メイクして切開…

3

17才、逃亡願望【ショートショート】

 逃げ出したい、と女は思った。夏の匂いがする前に。  17才になるのがコワかったのだ。  …

夜は静かな月の女王【ショートショート】

 窓の外からは何も聞こえない。私はこの時間が好きだった。邪魔するものがない、一人だけの時…

6

無限スクロール

上へ流れていくのは道理に背いている。けれどそれが自然なのだ。 水が川上から川下へ流れるよ…

宿命論

因果は廻る──牢に入った彼女のもとへ、彼は一度として面会へ赴かなかったが、それはこの思想…

2

囚人のカルペディエム

時は流れる。 あるべきものはあらざるものになり、 足るものは足らしめられるべきものになる。 凍える背中を抱いていた者がいなくなったとき、彼女の身体は夏のにおいを纏っていた。 彼女は駅前のフラワーショップに行けなくなった。思い出と恨み言が脳裏から剥がれなくなるからだ。 とくにカーネーションなどは、名前を聴くだけで心臓が止まりそうになる。 美しいだけの日々ではなかった。殴られたことはなかったが、その人のせいで地元に残らざるを得なくなったのは事実だった。 それでも今、カ

「嘘つき。」

misery. 彼女はインターネットになった. 言葉のひとつも信用してない. 言語化しなかった君の…

1

サイバーかわいくない運命【ショートショート】

運命ほどかわいいものはない。だって、みんな君のことを考えてるから。「こうなる運命だったん…

3

悔しい【ショートショート】

私がとても悔しいのは、その人が、私の好きな人と仕事をしていたからです。醜い恋煩いにおける…

5

遥かなる、希望のルルイエ

「この世界が、嘘であればよかった」 水槽の脳に繋がっているなら、そのぶんだけ幸せだ。 経…

4

私はなにも知らない【ショートショート】

家族は、学習机の下に置いて行こう。そして、またこの家に帰ってこれたなら、そのときは、ぎゅ…

4

天使が死んだ

雨上がり、天使が死んでいた。 羽をもがれた彼女──だと私が思ったのは、細くたおやかな身体…

またお会いできる日を楽しみにしています【ショートショート】

「また会いましょう」 「是非、またいつか」 そう言っておいて、二度と顔を見せなかった。 それどころか、メッセージのひとつも送ってこなかった。 そんな男を殺した罪。牢屋にいる私。 生まれてこの中、自分を守る嘘──宿題やったけど持ってくるの忘れました──は吐けども、相手を貶めるような嘘なぞ、一度としてこの口腔から吹き出たことはない。脳内に思い浮かんだことすらない。 私は真実の信奉者でもないし、キリスト教徒でもない。けれど、私はあの男たちが許せなかった。 美術館で出会った