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孤独でないグルメなサヴァ
何かと話題になっている映画に登場した料理を妄想して作りながら、映画以外のことまで妄想した記録。
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鯖の文化干し 1尾分
大蒜 1欠け
醤油 大匙1
胡麻油 小匙半分
コチュジャン 小匙半分
黒摺り胡麻 大匙1
12年も続いている深夜ドラマがまさかの映画化。
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まずは基本情報。
孤独のグルメとは元々は漫画。原作は久住昌之、作画は谷口ジロー。
輸入雑貨商である井之頭五郎が商談等で赴いた先で一人で飲食店に入り、食事を楽しむ。これだけの内容。
平成二十四年(2012)にテレビ東京にてドラマ化。断続的にだがドラマは続いて、ついに映画になった。
映画のストーリーはフランスのパリに赴いた五郎(松重豊)は依頼されていた繪を届ける。送ってもいい筈なのにわざわざ自分で持って來たのは依頼主の女性、千秋(杏)とちょっとした縁があるから。更に推測すれば、五郎はかって恋人と共に暮らしたパリをもう一度見たかったのではないか。
繪を欲していたのは千秋の祖父、松尾(塩見三省)。
松尾から子供の頃に飲んだ汁をもう一度飲みたいので、食材を探して欲しいと頼まれる。五郎は輸入雑貨商なので守備範囲外なのですが、成り行きで引き受けることになってしまい、奇妙な冒険が始まる。
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結論から言うと、思っていたのと違う映画。
12年の集大成と銘打っているだけあり、既存のファンへのサーヴィスに溢れている。
映画の中でパロディドラマがあったり、以前、ドラマに登場した店が出て来たりといった所にそれを感じます。
裏を返せば、この映画で初めて『孤独のグルメ』というコンテンツに触れる人にとっては楽しめる内容なのだろうか。
孤独というタイトルなのに結構、色んな人とつるんでいるし、ドラマのフォーマットを知らないとわかり辛い所があるのでは?
因みに私は原作漫画のファンでした。
初めて見た時、劇画調の繪で食べ物のことをあれこれと述べているのがミスマッチ感があって、他にはない漫画ということで引き込まれました。
原作漫画ファンからすると、井之頭五郎はこういうことはしないんじゃないかと思える場面が映画には結構あった。
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原作漫画の五郎は諦観という風があり、一度だけ横柄な店主に怒りを爆発させたことがありましたが、普段はあまり感情を露わにしない。
映画の五郎は渡船が出てしまった後、感情を露わにして無茶なことを始める場面がある。
この映画に限ったことではなく、ドラマも回数を重ねる毎に井之頭五郎のキャラクターが変質している。
ドラマが始まった頃は原作の雰囲気をよく再現していたと思うのですが、いつしか原作から離れたドラマの五郎になってしまった。
それが惡いと言っているのではありません。長く続けている内に変化してくるのは当たり前。ただ自分の好みとは少し離れてしまったように感じる。
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何となくドラマもあまり観なくなってきて、決定的に離れてしまったのはコ▢ナ禍。
その頃に放送された『孤独のグルメ』season8又は9から五郎はマスク飲食。
がっかり。
現実世界で猿轡している人ばかりなのに、ドラマの中でまで見たくないわ!
幸い映画では「増す苦」はしていなかったので安堵。ただ、コ▢ナのせいで飲食店がうまくいかなくなったという話が出て來る。
ドラマや映画は夢の世界。そこにまで現実世界の決まりを持ち込む必要があるのか疑問。
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映画の話に戻します。
『孤独のグルメ』映画化の話が出た時、韓國の監督にオファーしたが断られたため、主演の松重豊が脚本と監督を兼任。
幻のスープを再現するためにフランス、日本、韓國を股に掛ける物語を作り上げた。
テレビ東京は『孤独のグルメ』の製作権を韓國の企業に売却していると聞いたことがあります。だから韓國推しな訳か。
映画に韓國風の焼き鯖が登場。それを妄想しながら再現しているのです。
ついでにフランスが登場するので焼きÇa va (サヴァ)
映画で再現しようとしているスープを作ろうかとも思いましたが、何日も煮込む必要。私は飲食店をしたい訳ではなく、いい素材を少し手間をかけて美味しく家庭で頂きましょうというのが理念。そこで鯖を焼いている次第。
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捻った所のある冒険物語と観れば結構、面白く観賞出来ます。焼き鯖の他にもパリのオニオンスープ、長崎のちゃんぽん、東京の炒飯やラーメン等々を味わう五郎の心の聲も健在。
ただ、その汁をそうする?と思える展開があり、途中から方向性が変わってないか?と思えてくる。
ネガティブなことばかり書いているように感じるかもしれませんが、決して貶している訳ではありません。ドラマ版『孤独のグルメ』ファンにとっては楽しめるでしょう。
原作は作画の谷口ジローが亡くなっているので新作が出ることはない。もう『孤独のグルメ』というコンテンツは映像でしか楽しめないので、私も以前のように熱を持って追い駆けることはないけれど、氣が向いたらこれからもドラマや映画の松重五郎を楽しむかもしれません。
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文化干しを使ったのは塩味が既についていることと、水分が抜けているので、そこに調味液を染み込ませる狙い。
塩味、醤油の甘辛味、コチュジャンの微かな辛味が混然一体となり、油と摺りと二つの胡麻風味が付加される。
辛味は思った程ではなく、どちらかというと甘味が少し勝っている。
青魚のDHAやEPAという不飽和脂肪酸、胡麻からゴマグリナンやセサミンという抗酸化物質も頂ける。
鯖から良質なタンパク質。と栄養もバッチリ。
ドラマファンへの感謝状というべき映画で、実にうまそうに食べる五郎の姿は健在。
劇中、或る事情で横で見ているだけの韓國人が
『食べられない者の横で美味そうに食べやがって』と心の聲。
日韓、心の聲対決という場面もなかなかに面白い。
何となくハッピーエンドで美味く、いや上手くまとまった映画になっている『劇映画 孤独のグルメ』を妄想しながら、孤独でないグルメなサヴァをご馳走様でした。
Au revoir