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曲亭馬琴着煮

半分に切った油揚げに詰め物をして煮る巾着煮を作りながら、日本初の本格的ファンタジーと、それを作り上げた日本初の職業作家の日々を描いた映画を妄想した記録。


公開初日、最初の上映で観賞。

滝沢馬琴という名前で知られていますが、本來の筆名は曲亭馬琴。その馬琴の実生活と虚構である物語世界が交互に語られる映画。


材料

油揚げ   5枚
蛸足    1本
はんぺん  1枚
木綿豆腐  100g
生姜    1欠け
葱     少々
出汁パック 1枚
片栗粉   大匙2
醤油    大匙3、小匙1
味醂    大匙3

室町時代の安房國(千葉県)の領主、里見義実は安西景連に攻められて籠城。万策尽きた義実は飼い犬の八房に
「景連の首を取ってきたら、娘の伏姫を嫁にやる」と話し掛ける。
半ば戯言でしたが、何と本当に八房は景連の首を咥えて帰って来る。
困り果てるが、当の伏姫(土屋太鳳)が
「たとえ犬でも約束は守らねばなりません」として八房と共に城から姿を消す。
景連を陰から操っていた妖婦、玉梓(栗山千明)を成敗。死に臨んで玉梓は里見家に呪いをかける。
八房と伏姫は命を落とすが、伏姫の祈りが込められた数珠の玉にはそれぞれ仁、義、礼、忠、孝、智、信、悌の文字が書かれていたが、それが空中に四散。


豆腐をペーパータオルに包んで水切り。

馬琴(役所広司)が語った虚構である『南総里見八犬伝』の始まりを聞いた葛飾北斎(内野聖陽)は感心頻り。
「石灰で固めたみたいな石頭から、どうしてこんな面白え話が出て来るんだ」
馬琴が物語を聞かせたのは北斎に挿絵を描いて欲しいから。
聞いた場面を即興で描いてみせた北斎ですが、正式に挿絵を描くことは断る。
理由は馬琴の注文がうるさ過ぎるから。絵師として誰にも指図されずに好きな物を描きたいと語る北斎ですが話の続きが氣になり、その後も度々、馬琴宅を訪れ、話を聞いて絵を描く。但し、その絵は決して使わせない。
馬琴も話すことで構想が固まるということか、北斎に八犬伝を語るというのが実の部分。


蛸を食べやすい大きさに切る。

時が過ぎ、各地に生まれながらに牡丹形の痣を持ち、玉を持って生まれた男子達。
孝の玉を持つ犬塚信乃が名刀村雨を関東管領に献上する旅に出る。
その旅の中で運命に導かれて、玉を持つ男達に出会い、里見家にかけられた妖怪玉梓の呪いを解く為に戰わねばならない宿命に氣付いていく。


油揚げを半分に切り、袋状にして熱湯をかけて油抜き。

戯作者として有名になっていた馬琴ですが、私生活は必ずしも順調ではない。
滝沢家は元々武家でしたが零落して、馬琴は下駄屋に婿入り。ところが下駄屋はやめて筆一本で生活。
妻のお百(寺島しのぶ)は文筆などにはまったく興味を示さずどころか、執筆などは遊んでいるようにしか見えず、悪態をつく。
馬琴は滝沢家を武家に戻したいと希望。そのために息子の鎮五郎を医者にして、大名家の御抱えにすべく躾けていた。


潰した豆腐、千切ったはんぺん、刻んだ青葱、摺り下ろした生姜、片栗粉、醤油小匙1、蛸を混ぜ合わせる。

紆余曲折を経て集合した八犬士達は里見家へ。
里見家に圧迫を加えている扇ヶ谷定正、背後で操る復活した玉梓と戰う。


油揚げに詰めて楊枝で止める。

馬琴が八犬伝の構想と執筆に費やした時間は二十八年間。その間、北斎との交流は続き、八犬伝の挿絵は北斎の娘婿が担当。
馬琴と北斎は『東海道四谷怪談』を観劇。
所謂、お岩さんの怪談なのですが、この話は忠臣蔵に嵌め込まれています。
お岩さんの夫、民谷伊右衛門は播州赤穂浅野家の家臣で討ち入りに参加する筈だったという筋立て。
作者の鶴屋南北に會った馬琴は虚実についての問答。
忠臣蔵という武士の正義を描く物語に何故、怪談をくっ付けるのか、馬琴にはそれが疑問というか不満。
南北の返答はなかなかに興味深い。創作する者の姿勢の違いを感じる場面。


巾着、出汁パック、醤油と味醂を大匙3,水350㎖を火に掛ける。

惡が勝つこともある現実の世界。虚構の中では必ず正義が勝たねばならない。善因善果、惡因惡果が馬琴の理想。
現実世界の不条理は滝沢家にも襲い掛かる。
馬琴の希望通り医者となり、宗伯と名を変えた息子は松前家の御抱えになったが病弱で出仕もままならず、ついに早世。
自分も息子も何も惡いことはしていないのに、どうしてこんなメに遭うのかと悲嘆。
馬琴自身にも失明という試練。
八犬伝も未完のままになってしまうかと思われた時、思わぬ人の助けで救われる。


沸騰したら、落し蓋をして弱火で十分。

馬琴が『八犬伝』の構想から完成に費やした時間は二十八年間。
代表作どころかもはやライフワーク。
この映画はその間の馬琴と家族、北斎との交友の記録。そして八犬伝の物語世界をも楽しめる。二重奏のエンターテインメント。
上映時間は二時間半を超えますが、やはり二つの世界を描いていることから、どうしても大雑把感。
八犬士の道節と毛野が何故、扇ヶ谷定正を狙うのか理由が示されない。
船蟲という悪女は何者だったのか?等、原作を知らない人には理解出来ない点が散見。
現実部分でも馬琴には実際は娘もいた筈ですが登場せず。あたかも息子だけのように見える。
端折っている感はありますが、エッセンスは押さえているので、まあダイジェストと思えばいいのか。


いい感じに煮えた。

北斎も指摘していたことですが、室町時代初期に鉄砲があったのか?
問われた馬琴は鉄砲が日本に来たのはこの物語の六十年後だが、読者が許容してくれる範囲の嘘は書くと返答。
本当ばかりでも面白くないし、嘘ばかりでも面白くない。近松門左衛門が言った虚実皮膜論を思い起こす話。現代にも通じるクリエイターっぽい教訓。
実際にはなかった鉄砲や火薬が使われているからこそ、大規模な爆発や銃撃で迫力ある映像。そればかりかワイヤーアクションやCGと『八犬伝』のパートは迫力あり引き込まれる。


曲亭馬琴着煮

しっかりと味が染み込んだ巾着。使った出汁パックは添加物なしで鯖出汁。
中身の豆腐とはんぺんが柔らかく、クニャクニャとした蛸がいいアクセント。
映画の重要な登場人物、北斎は蛸の絵を描いていたことを思い出したので蛸を入れてみた次第。
コレステロールを抑える働きがあるタウリンを含む蛸。鉄分やビタミン、タンパク質も頂ける。
葱のアリシンが食欲促進。

物語で氣になったのは里見義実ですが、そもそもあんたがはっきりしないから、こんなことになったんじゃないの?とツッコミ入れたくなります。

現実パートでは馬琴が石頭過ぎるから、こんなことになるんじゃないのとも思える。
ただ、人間は不完全な存在ですから、そういう部分がしっかりと描かれている映画と言える。

壮年期から老境に至るまでの馬琴を演じた役所広司はやはり素晴らしい演技を見せてくれます。参考↓

八犬伝パートの発端と結末部分に登場する伏姫を演じた土屋太鳳がヒロインを演じた映画についてはこちらをどうぞ。↓


虚構と現実を行き来する映画を妄想しながら、曲亭馬琴着煮をご馳走様でした。



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