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ヨーロッパ芸術祭めぐりの旅でのあれこれ 2017

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アート&カルチャー系のライターがゆく、ヨーロッパ芸術祭めぐり。 2017年は芸術祭のミレニアムイヤー! アテネ&カッセルの2会場で開催中のドクメンタ、ミュンスター彫刻プロジェク…
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#旅行記

ほぼひと月のアート旅も今日で終わり、まもなく機上の人に

ミラノでは「いかなくちゃ!」という衝動にかられる国際展をやっているわけではないので、朝もなんだかぼんやりと起きる。またも予定を決めずに宿を出て、モンテ・ナポレオーレ通りというミラノの高級ブティック通りを散策した。道の両側に高級店が並んでいて、ウィンドウを眺めているだけでも楽しい。 モンテ・ナポレオーレ通りは、歩いている人々の種類もちょっと違う。お買い物に来ている人たちは皆、肌や髪がつやつやしていてよく手入れをしていることが一目で分かるし、タンクトップ+ショートパンツ+サンダ

美術館が休みの月曜日。まちかどで日常のアートと出会う

月曜日は美術館がおやすみなので、テルメミラノに出かけることにした。スパである。昼前に宿を出て、ショッピングストリートで10ユーロしない水着を仕入れてメトロでテルメミラノに向かう。ここは都市部にあるスパとして有名で、アクセスが良いので気軽に利用できるのだ。江ノ島スパのように、水着を着用して男女一緒に楽しめる。 入り口で先にお会計を済ませて、バスローブとバスタオル、それにビーチサンダルを借り水着に着替えてから、スパの中を探検した。室内にも屋外の中庭にも低温から高音までいろんなサ

お洒落をして笑顔でいれば、ショッピングも食事も、ぐんと楽しい時間になる

朝早めにホステルを抜け出してメトロに乗り、広場の一角にあるカフェでカプチーノとチョコクロワッサンをオーダーした。イタリア人は毎朝、街角のカフェでエスプレッソをぐいと立ち飲みするらしいとは聞いていたが、先客のワンちゃんのお散歩中のマダムがまさにそうで、カップを片手にぐい飲みすると、「グラッツェ、チャオ!」と、お店を出て行かれた。年季が入っていて格好がいい。 朝食後にバスに乗って出かけたのは、イタリアとの国境にほど近いスイス国内のアウトレット・モール、フォックスタウンだ。前日の

観光客らしくツアーバスに乗り込むと、ミラノの美と歴史をぎゅっと堪能できる

とくに予定も立てていないけれど、とりあえず10時には見所が固まっているというドォウーモを目指して出かけることにした。メトロのカルネ(10回券)を買っておいたし宿からも近い。 ドォウーモ前の広場にはケルン大聖堂やサンマルコ広場と変わらずに観光客がどっさりいる。違うのはどうやらドォウーモに入るにはチケットを買わなくってはいけないこと。せっかくだから入りたいけれど、ちょっとめんどくさいので、隣のショッピングモールを散策していたら、市内ツアーの案内所にたどり着いた。ありとあらゆるツ

ヴェニスの商人とアートのある休日

ぐっすり眠れて目覚めが爽快だ。ホステルで簡単に朝食を済ませると、水上バスに乗って、ヴェネツィア・ビエンナーレのもう一つのメイン会場に向かった。実はこちらが本丸なのである。 GIARDINIとマップ上に記された会場敷地内には、複数の建物が点在している。建物それぞれに国名が記されており、国ごとの展示がされているのだ。まるで小さな文化大使館が建ち並んでいるかのようである。 日本館は吉阪隆正の設計で1956年に建てられた。この敷地内最後の建築用地を割り当てられてのことだったそう。

若きアーティストが、創作と経済活動の間で難しさを抱えるのは、どこでもおなじ

旅の日課にしているnoteの記事だが、はじめて1日空けてしまった。1日かけて鉄道で移動していたためだ。ベルリン中央駅を朝6時27分に出発する鉄道に乗り込んで6時間かけてミュンヘンへ。乗り換えてさらに6時間でイタリアのベローナに着く。そこから1時間でヴェネツィアだ。ちょうど夕暮れ時に到着した水の都ヴェネツィアは、最高の景色。水上バスで移動してホステルにたどりついたのは22時だった。 鉄道移動の後半では6人掛けの個室をほぼ1人で使えたので、寝っ転がって本を読んだり、マキとトーマ

ベルリンはいま、ジェントリフィケーションの終わりの季節を迎えている

ついつい夜中まで話し込んでしまうので、起床時間が遅くなる。昼ごろまでマキと彼女のパートナーのトーマスとキッチンでおしゃべりして過ごした。多くの人がもっと豊かにアートを鑑賞できるようになるために、ポップで楽しい消費的なカルチャーではないアートの本質に触れられるようになるために、何が必要かといったら、もっとダイレクトなコミニケーションやアンダーグラウンドのカルチャーシーンを豊かにしていくことだと、トーマスはいう。彼もアーティストなので、視点が面白い。日本で感じる現代アート周辺の課

ORGANOVINO ご近所の教会でたのしむ、現代音楽とワイン

雨予報だったのに青空が広がるベルリンで目覚めた。晴れ女ぶりも健在だ。マキが作ってくれた朝ごはんをゆっくりと食べながら、見てきた芸術祭の話をしたりして午前中を過ごした。 午後からはマキが進めてくれた市内観光巡回バスに乗ってみた。広いベルリンの街を把握するのに役立つ。プロイセン帝国の首都としての歴史と、その後のナチス統治及び戦争の被害と戦後の分断。街にはしっかりと歴史が刻まれていて興味深い。ベルリンの街はパッチワークのように、モダンで洒落たデザインの四角いビルと、丸みを帯びて装

余白を持てたら、人との関わりが嬉しい

5泊したカッセルのホステルを出る時は、なんだかほんのり寂しかった。中央駅まで行き、ベルリン行きの特急に乗り込むと、電車は満席。しかたなく車両の連結通路にスーツケースを置いて腰掛ける。車窓を流れる田園風景をながめながら、音楽を聞いてぼんやり過ごした。 ほぼ1ヶ月の旅は折り返し地点を過ぎた。 思えば、アテネやミュンスターに滞在していたときには、まだ日本にいた時の感覚が抜けきっていなくて、旅に出るまでの様々な出来事が脳裏をよぎっては、ハラハラしたり、イライラしたりしていた。旅は

赤いリップグロス

ドクメンタの2日目は朝からnoteの記事を書いていて、気がつけばホステルのキッチンで12時を迎えてしまった。前日に頭を使いすぎていて、身体がしんどい。もうオフモードでゆるゆるいくしかない。 ホステルを出て、北側の小さな会場をぶらぶらとめぐった。インスタレーションと映像展示がほとんどで、ラジオ放送局もあり、アテネの伝説的なバーを題材にして、夜には実際にバーになる作品もあった。 それにしても、くたくただ。もっとも北側の展示会場NORDSTADPARKで、草花の植栽でできたピラ

アートの傍では、どんな意見でも許容されることが前提だ

旅に出てから毎朝、前日の経験を咀嚼するためにひとつ記事を書くことを日課にしているが、今朝はふたつめの記事も書くことにした。それだけ、5年に一度開催されるごとに世界からアートファンを集めるカッセルでのドクメンタが刺激的なのだ。書くことで咀嚼して、経験を意識に定着させておきたい。 午後はFRIEDERICIAMという、伝統的にドクメンタの会場として使用されている美術館に向かった。ここは、アテネのドクメンタでメイン会場になっていたGreece's National Museum

その時、その場所で観るから面白い。だからアートをめがけて旅をするんだ

3日目のミュンスターの朝も、晴れた。慣れない自転車で身体はへたばり気味だが、前日と変わらぬ勢いでワクワクと作品探訪に向かった。なにせ、ミュンスター彫刻プロジェクトは、10年に1度しか開催されない展覧会なのだ。次にこの街に来るのは、きっと10年後だろう。 各展示場所へは、この日も自転車移動だ。ミュンスターは人口の倍の自転車保有率だそうで、自転車用道路も整備されていて走りやすい。が、みな猛スピードで飛ばしているので、交通ルールを守らないとちょっと(かなり)危ない。「逆走しないの

おおらかで品のいいデザインは、個性ある人や都市をありのまま受け入れる器になる

ドクメンタ14 アテネの会場をめぐりながら、もっと個々の作品と対話をして、それぞれの抱え持つコンセプトを味わえたらとは思うのだけれど、なんだかどこかに「グループ展だから」と諦めてしまう自分がいる。個展ならそのアーティストの問題意識や社会に投げかける眼差し、それをどう昇華させようとしているのか、プロセスも含めて、作品コンセプトがよく見える。しかし、グループ展では、基本的には1作家1作品なのだし、1作品だけを見たのではわからないことの方が多すぎると思ってしまうからだ。 そんな自

小さな肯定感で社会のひずみを乗り越えていく強さは、むくむくのファーの中にだって存在する

生きぬく力と、アートを生み出す根元的な力は同じ。私にとってのアートは、魂の光から生まれ出たものだ。そういう意味では、人間皆がアーティストだと言えるし、アーティストだからといって、ドクメンタのような国際展に選ばれるような作品を作れるとは限らない。要はつくっている本人が、作品をどう研ぎ澄ますのかが問題なのだ。そして、今回のドクメンタ14のディレクター、アダム・シムジックは、どんな風に研ぎ澄まされた作品を選んでいるのだろうか。 「47会場のうち、パフォーマンスのみの会場も多いから