ORGANOVINO ご近所の教会でたのしむ、現代音楽とワイン
雨予報だったのに青空が広がるベルリンで目覚めた。晴れ女ぶりも健在だ。マキが作ってくれた朝ごはんをゆっくりと食べながら、見てきた芸術祭の話をしたりして午前中を過ごした。
午後からはマキが進めてくれた市内観光巡回バスに乗ってみた。広いベルリンの街を把握するのに役立つ。プロイセン帝国の首都としての歴史と、その後のナチス統治及び戦争の被害と戦後の分断。街にはしっかりと歴史が刻まれていて興味深い。ベルリンの街はパッチワークのように、モダンで洒落たデザインの四角いビルと、丸みを帯びて装飾的な王宮などの歴史的建造物が交互に存在している。建物の谷間には、迫力あるモダンなパブリックアートも点在していて楽しい。ベルリンの壁やユダヤ人の慰霊モニュメントなど、大戦の記憶もしっかりと残して観光資源として活用していた。いわゆるダークツーリズムがまた、ベルリンの他都市とは異なる魅力になっているのだ。
美術史上で言及されることの多い「死の舞踏」の壁画があるというマリエン教会にも立ち寄った。テレビ塔のすぐ近くだ。
壁画は修復中で、色が褪せてしまっていてほとんど見えないので、図案もあわせて展示されていた。この教会は森鴎外の『舞姫』の舞台にもなったそうだ。帰国したらあらためて読んでみたい。
改修中のペルガモン美術館で、一部アラビア美術のコレクションを公開していたので、鑑賞した後、ショッピングモールやKa De We という老舗デパートを冷やかしたりして、東京のファッションシーンはやっぱりかっこいいんだなと感じたり。
夜はマキの友人が何かやるというので、出かけてみたらそこは教会だった。
集まってきた人々が開演を前に楽しそうにワインを飲みながら話をしていた。
音楽が素晴らしかった。
とても現代的なギターの即興演奏もあれば、観客のリクエストに応えて歌手が歌い、観客も歌を口ずさんだり、おもちゃ楽器をつかったこれもまた現代的な即興演奏もあり、最後は夏にぴったりの往年のポップソングが歌われた。この教会のパイプオルガンの50歳の誕生日を祝うイベントだそうで、全ての曲にパイプオルガンの音が添えられていた。
中高年の人々が、とてもリラックスして音楽を楽しんでいる姿が好ましかった。だれも肩肘を張っていないし、だれもかっこつけていない。演奏者も観客も、ちょっとお洒落してご近所でいつもと違う会を楽しんでいるような感覚で過ごしているのに、そこには、上質な音楽がある。
「現代音楽の観客って、日本だと若い人ばっかりだよ」と、話してみたら、マキの友人のHannesは、「たぶん場所が教会だからだと思う。今日のこの感じはとっても特殊だよ」と教えてくれた。
Hannesのギターでの即興演奏は素晴らしく、東京で演奏したら、きっと多くの人が喜ぶのではないかと思う。まだアジアで演奏したことはないそうだ。「六本木のスーパー・デラックスのウェブをチェックしてみてよ」と、彼に東京情報を吹き込んでおいた。
この日は「ORGANOVINO」つまり「オルガンとワイン」という名前のイベントなのだが、なんだか陽気なお客さんが多くて、入れ替わり立ち替り、いろんな人と話をした。私はドイツ語がからきし分からないのに、私に合わせて英語でコミニケーションをとってくれるのだ。優しくて、温かくて、新しいことにも興味があるおじさま、おばさまがたは、キラキラと眩しかった。もうたぶん、70歳に近いんだろうなというお年なのに!