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観光客らしくツアーバスに乗り込むと、ミラノの美と歴史をぎゅっと堪能できる

とくに予定も立てていないけれど、とりあえず10時には見所が固まっているというドォウーモを目指して出かけることにした。メトロのカルネ(10回券)を買っておいたし宿からも近い。

ドォウーモ前の広場にはケルン大聖堂やサンマルコ広場と変わらずに観光客がどっさりいる。違うのはどうやらドォウーモに入るにはチケットを買わなくってはいけないこと。せっかくだから入りたいけれど、ちょっとめんどくさいので、隣のショッピングモールを散策していたら、市内ツアーの案内所にたどり着いた。ありとあらゆるツアーが案内されている。セグウェイで市内をめぐるツアーもあって楽しそう。

当日でも予約できるというので、ドォウーモ、スカラ座、最後の晩餐とミラノの3大観光地をガイド付きでめぐるツアーに申し込んだ。少々お高いんだけれども、どこもチケットが必要だし、最後の晩餐は事前予約をしなければならないので、手間も省けて楽チンだ。普段の旅行では街をふらふらしているのを優先して、絶対にツアーなんか申し込んだりしないのに、短期間の滞在で楽しもうと思ったら、やっぱりツアーは便利と思い返したのである。

2時半と指定されたツアー開始時刻にはまだ間があったので、ぷらりと街に出てみると、目の前に城壁が見えてきた。

スフォルツェスコ城だ。何にも知らずに、ばたりとこの風景に出くわして、最初はなんだかわからなかったのだが、中に入ってみると、この城がかつて星型の城が星型のだったことや、15世紀からミラノ公国の中心に位置する重要な拠点だったこと、現在は美術館になって一般に解放されていることがわかった。

ゲーム・オブ・スローンズを思い出してしまうような城壁の橋もそのまま保存されている。

時間もあるし興味をそそられて、美術館を観覧をすることにした。入り口でチケットを買うと、たったの5ユーロだ。しかし、ここのコレクションはものすごかった。東京国立博物館のような感じだと思っていただいたらよい。古代美術から、中世の家具などの調度品、イタリア絵画の名作、かつて城で使用されていた陶磁器や楽器類の数々が展示されている。質もすごいが種類も数もすごい。はばからずにいえば、「金銀財宝ざっくざく」なのである。

デザイン性の高い奇抜な家具もあるし、なにより絵画が素晴らしかった。しかし、なぜだか絵画は恐れ多くて写真を撮るのをためらってしまう。

うっかりしていると、ランチを食べる時間がなくなりそうだったので、後半は駆け足で観たけれど、それでも2時間以上かかった。城内部の空間も、中世の貴族の暮らしを想像できて、ロマンがある。

スフォルツェスコ城内のカフェでサラダランチをいただくと、いよいよ観光ツアーに出発だ。

まずはドォウーモ。案内役のミラネーゼが詳しくその魅力を教えてくれる。イタリア国内にたくさんある川からとれる大理石でこのドォウーモが作られていることや、度重なる侵略で建築にずいぶんと時間がかかったことなど、建物を観ながら話を聞くとまた格別だ。

入り口入ってすぐ右側にあるステンドグラスは日時計になっている。季節によって差し込む日の高さを測れるように、ステンドグラスからゴールドの直線が床に伸びて、蠍や天秤の絵が記されていた。いわゆる光のインスタレーションである。オラファー・エリアソンなど、光のインスタレーションを制作する現代アーティストもいるが、なるほど、中世から光をこうして楽しんでいたのだなぁと、面白く感じた。陰影を礼賛する日本人と西洋人は光に対する感性はちょっと違うんだろう。

スカラ座も劇場内をバルコニー席から覗かせてもらえ、スカラ座ゆかりの指揮者や役者の肖像画を揃えた美術館も案内してもらった。かつてスカラ座のホワイエはカジノのようにカードゲームを楽しむ場所だったんだそう。その風習はいまではたち消えて(是正されて?)いるが、その頃の時代を懐かしむように、カードまで展示されていた。マリア・カラスの美しい肖像画もあった。スカラ座を通じて音楽人達の生き様が見えてくる。

その後はしばらくバスで市内をめぐりながら、車窓から観光を楽しんだ。旧市街地を抜け、モダンなビルが立ち並ぶ一帯を走る。ミラネーゼの案内役は「古いミラノと新しいミラノ」と紹介していたが、ミラノ中央駅付近は盛んに再開発が行われているらしく、工事現場が並んでいた。新陳代謝が進んでいる。ボスコ・ヴェルティカーレという天空にそびえる森をイメージしたビルも車窓から見えた。ヴェネツィアであったアート学生の日本人女性も観に行ったと言っていた、有名な建築物だ。マイクロソフトのピラミットみたいなビルも個性的が際立っていた。

しかし、こうしたモダンな建築群は、それぞれが強い個性を持っているので、街を俯瞰して観たときにどこかちぐはぐしているようにも感じる。数年前に観たドキュメンタリー映画『だれも知らない建築のはなし』で、建築家のレム・コールハースが東京の真四角で個性のないビルのことを褒めていて、とても印象に残っているのだが、ミラノのモダンで個性が爆発している建築物の数々を眺めてみてはじめて、コールハースの言わんとしていることが理解できたような気がした。

ツアーのフィナーレは、レオナルド・ダ・ヴィンチの《最後の晩餐》である。50人いるツアー客が半分に分けられて、25人づつ見学をする。私は後半組だったので、近くのカフェでピスタチオのジェラートを買って、むふむふと食べながら、前半組の観覧が終わるのを待った。

そして、いよいよ世界に名をはせる名画と対面。

有名な話だが、ダ・ヴィンチは当時は壁画制作で一般的な技法だったフレスコではなく、油彩を用いてこの《最後の晩餐》を制作している。そのため、どうも損傷が激しいようなのである。

ダ・ヴィンチにとって、伝統よりも革新が重要だったのだ。100年単位の経年変化の結果がまだ試されていない頃に油彩を用いての制作を選ぶのは、実はなかなかにチャレンジングなことだったろう。ダ・ヴィンチは才能あるイノベーターであったのだろう。

これまでの目的にのように、国際展が開催されているわけでもないので、とくに目的なく来たミラノでは、カフェでミラネーゼのファッションでも眺めながらのんびり過ごそうと思っていたのに、結局がんがん「観光」してしまったわけだ。観光ツアーに参加してみて、美術鑑賞と「観光」の間にある、本来は存在しないはずの境界の手触りを感じたりして、そこもまた、興味深い。

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