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「たこ公園」は、やっぱり「たこ公園」だった

「たこ公園」と呼ばれている公園がある。正式な公園名は別にあるのだけれど、近所の人たちはみな、その公園のことを「たこ公園」と呼ぶ。なぜなら、その公園の中央には、巨大なタコの形をした滑り台が鎮座しているから。

特徴のある公園はあだ名が付きやすい。わたしが幼い頃に遊んでいたラクダの遊具がある公園は「らくだ公園」と呼ばれていたし、信号の模型やミニ横断歩道などが地面に描かれている公園は「交通公園」と呼ばれていた。それと同じような形で、近所にあるタコの遊具のある公園のことは「たこ公園」と呼ばれている。わたしが幼い頃に住んでいた地域と、今住んでいる地域は異なる場所にあるのだけれど、どの地域でも公園の呼び名は同じようなものらしい。

さて、その「たこ公園」は、娘ちゃんが小さいときからよく遊びに行く公園だ。大きなタコの遊具は、昔からそこにあるのか、結構年季が入っている。色あせた巨大なタコから足が生えるように、四方に滑り台が繋がっていた。登るのは、階段ではなく石のでっぱり。ちょっとしたクライミングのような形で頂上まで登ったら、四方に伸びる滑り台のうち、好きなところから滑り降りることができるというもの。この滑り台が、これまた角度が急で、結構危険だった。おまけに、一昔前の滑り台。コンクリートで固められてできているので、一歩間違って頭を打ったりすると大怪我になりかねないような感じ。わたしは、幼い娘ちゃんをこの滑り台で遊ばせるのが、正直怖かった。すぐに怪我をしてしまいそうで。

でも、このタコの遊具は、子どもたちに大人気だった。頂上の部分はちょっとしたドームになっていて、中はさながら秘密基地のよう。放課後の小学生がここで遊ぶときにセーブポイントとして使っていたり、座り込んで漫画を読んでいる子がいたり、稀にここでノートを広げて宿題をしている子もいた。ちょっとしたスペースだけれど、子ども心をくすぐる良い場所だった。滑り台も、場所によって角度がちがうので、スリルを味わうならここ、初心者の子は比較的なだらかなこっち、みんなで一緒にせーので滑りたいなら横幅が広いあっち、と、選ぶこともできた。
小学生のお兄さんお姉さんたちが、まだ小さい娘ちゃんの手を引いて、登るのを手伝ってくれたり、一緒になって滑り台を滑り降りてくれたり。いつか怪我をするのではないか、と冷や冷やしながら見守りつつ、なんだかんだでそのタコの遊具に愛着が湧いている自分もいた。

そんなたこ公園の顔とも言える巨大なタコの遊具が、取り壊されることになった。理由は、老朽化だった。妥当とも言える判断だなぁと思うものの、近所のあの公園からタコがいなくなってしまうと、もうあの公園は「たこ公園」ではなくなってしまうのか、と、ちょっとだけ寂しい気持ちになった。

近所のママ友と、「あそこのタコがおらへんくなったら、もう"たこ公園"とちゃうし、次からなんて呼んだらいいんやろね」なんて話をしながら、工事のために立ち入り禁止になっているたこ公園を、遠くから眺めたりした。

さて、そんな「たこ公園」。ついに巨大なタコの遊具が撤去され、新しい遊具がお目見えした。公園の中央にどんと置かれたそれは、赤いペンキで塗られた大きな滑り台。ん?周囲にちょっとうねうねした腕のようなものが見える。あれはなんだろう。

……タコだ!!!!!!!!!

タコだ!タコの遊具だ!年季の入ったタコの滑り台が撤去され、そこに新たに搬入されたのは、真新しいぴかぴかのタコの滑り台。タコが代替わりした。ここの公園は、やっぱり「たこ公園」なんだ。

まだ「たこ公園」は工事中につき立ち入り禁止になっている。でも、ぴかぴかのタコの滑り台は、遠目からでもよく分かる。あれは絶対にタコ。嬉しくなって、残業から帰ってきた夫に「たこ公園な、あのタコの滑り台撤去されて、何ができたと思う?新しいタコの滑り台やで!!!!!」と共有した。「タコの後釜にちゃんとタコの遊具持ってくんの、センスありすぎやろ」と口々に言い合った。

新しくなった「たこ公園」。怪我の心配なく、安心して遊べるぴかぴかになったタコの遊具で遊べる日がくるのが待ち遠しい。



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あやめし
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