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キリング・ミー・ソフトリー【小説】13_蒼い春
慣れないスーツに袖を通す朝。
せっかくの機会だから兄にもメッセージアプリで共有しようと父が言い、玄関先で写真を撮られた。
息子が成長していく過程をスマートフォンのデータフォルダに収める両親の姿は幸せそのもの。
ところが、目の前に聳え立つ家のちょうどこちらを見下ろす位置にある窓を開け、誰かがコソコソ様子を窺っている。
同い年でかつて自分とも仲が良かった人物だろう。あちらは有名大学の受験に失敗し、妥協せず浪人生活を歩む予定なのでこの残酷な光景をこれ以上晒してはならない。
「もうやめよ、上着探さなきゃ。」
「あと何枚か欲しいけど、まあいいわ。ホント寒いわよね。」
「よし。後でトモくんち寄って一緒に駅まで送ってあげる。」
「父さんありがと。」
嫌悪感が漂う視線を悟らせまいと、家の中に二人を押し込む。
晴れて本格的に大学生活が始まる。
今日に合わせ県内随一の美容室に赴き、髪を切った。癖毛を活かしパーマ風のマッシュに、ソフトなツーブロックでピアスがちらりと覗く長さがベスト、自宅での再現度も高い、スタイリング不要、とか言葉の意味はちんぷんかんぷんだったが、前髪の長さを保ったまま見違える程カッコいい〈髪型〉にして貰う。
知成はなんとスーツですらなく、髪を束ね派手な柄物のセットアップ、丸眼鏡をかけて現れた。実によく似合っている。
「ドレスコード?知らんこっちゃねえわ。」
こちらがどんなに気合いを入れても常に型破りなスタイルで上回る彼はお馴染みの黄色い声援にヘラヘラ応え、真司はというと社会人にしか見えなかった。
未来に満ち溢れた希望で胸がいっぱいだ。
4年なんて呆気なく終わってしまう。
まるきり同じ日は訪れず、瞬きの一秒前にも戻れない、俺達は。