Bettane+Desseauveによるワインコンクール@パリ20区「ル・ソラリス」 フランスの週刊フードニュース 2023.04.17
今週のひとこと
Chat GPTがにわかに話題になっています。ITリテラシーは低いながらも、無視することはできない。便利なツールとして取り入れたい、利用したいと積極的に考えています。
Chat GPTのバージョンアップにより、チャットによる回答による精度が段違いに高まったということ。司法試験に挑戦すればトップ10%のスコア。今までの下位10%程度のレベルだったのが、この6ヶ月であっという間に進歩を遂げたということ。騒がれているシンギュラリティももう目の前ではないかと誰しもが考えているようです。
誰でも手に入る情報だけをもとに漫然と仕事をしているだけのホワイトワーカーにとっては厳しい時代になっていくかもしれませんが、より高度な分析力が求められていく。また、現場でのリアルにどれだけ触れているかに特化していくことや、緻密かつ炯眼を持った行動力にかかっているのではないかと感じる今日この頃です。
いずれにしても情報をどのように手に入れるかという執拗さに、Chat GPTという道具が加わったのは、なかなか面白い事ではないかと思っています。しかしながら、Chat GPTの返答に振り回されないというスタンスが大切と、実際に使ってみて感じました。エキスパートならわかる小さな間違いが散見する。発信する人間が、より熟練した読み手であり、行動を伴った探求者であることも求められてくるのではないか、それによって精度がさらに増していくのではと思いました。そうした意味では、それをする人としない人との間の二極化も広がって、殺伐とした問題を生産するかもしれません。
コンピューターサイエンス界を牽引する一人でいらっしゃる暦本純一氏が、某番組で、AIが進化する中、料理は今後もなくならない分野の1つではないかとおっしゃっていたのが、印象に残りました。AIはデーターの集積であるが、実際に物を触り愛でることができるのは人間の特権であると。前回紹介させていた茶懐石「秋吉」さんにて、濃茶をいただいたお茶椀。京焼の窯元「真葛焼」の永楽を手にした一服にて、100年の旅をさせてくれたことを思い浮かべました。
ところで、真葛焼6代目の当代宮川香齋の息子さんである宮川真一さんは、コロナ禍になる直前の2020年に茶懐石料理を真葛焼でいただくというイベントをされましたが、本年9月末から約10日間にわたり、より内容の豊かなイベントをするということで、とても楽しみです。京都の茶の湯に纏わる工芸関係や、老舗の食品メーカーの方々と共にパリを訪れ「世界を魅了する 京都 茶の湯への誘い」というテーマのイベントです。
さて、フランスワインのガイドで知られる「Guide Bettane et Desseauve des vins de France」やワインの季刊誌「Magnum」なども手がける、有名なワイン評論家2人が立ち上げた「Bettane+Desseauve」。大型小売店で販売されるリーズナブルなワインをジャッジするコンクールPlaisir賞を長年開催していますが、2023年の第13回Plaisir賞に審査員として参加しました。
評価されるのはと30ユーロ以下のシャンパーニュと18ユーロ以下のそれ以外の地域のフランスワイン(最低価格は何と2ユーロから)で、おおよそ1500本のワインが試飲されます。
審査員はBettane+Desseauveがセレクトした消費者。消費者、とはいえ、カヴィストなど小売店のオーナーやソムリエ、ジャーナリストがほとんどでしたが。チームが分かれ2日間にわたっての試飲。今年は600ほどのワインに金銀銅賞が授与され、ラベルを貼ることが許されました。スーパーに所狭しと並ぶワインボトル。金銀銅賞のラベル付きワインには目がとまり、売り上げにつながるという仕組みで、ワイン業界の活性化を図っています。
私が参加したセクションはボルドーワイン。6.01から9ユーロのボトルを12種試飲。20点満点で、香り、味、そして、面白いのは、どういうシーンで飲みたいかというコメントが求められます。12本のうち、銀賞に入ったワインが1本。我々のチームは、ワイン好きなスポーツジャーナリストと、名ワインバー「バロン・ルージュ」のカヴィストの3人。それぞれの感じ方が異なりましたが、次々に生まれる会話が刺激的でした。「パワーとインテンシティの違いと、ポテンシャルのポジティブ・ネガティブとは」、「力強く、繊細であるためには」、「キャラメル香とアニス香の共存は心地よいか」、「9ユーロ以下のワインは当然セクシーではないから、他観点から評価しなくては」、など。
異なる経験の蓄積があるからこそ生まれる感動や楽しみ、それを分かち合う喜びやそのプロセスは、情報の蓄積と異なり、データー化できないものではないかと思いました。ただし、人間の脳をデジタル化することのできる時代もそう遠くないかもしれませんが。。。
ところで開催された場所はパリ20区の「ル・ソラリス」。1910年にある労働組合によって建設された施設で、アール・デコの建築が美しい。レンガには「仕事」と「サイエンス」の言葉が刻まれており、掲げられているロゴは「昇る太陽」とは、シュールな気分に。
アンドレイ・タルコフスキー監督による名作「惑星ソラリス」を思い出しました。その3年前に公開された「2001年宇宙の旅」と同様の衝撃的な映画ですが、タルコフスキーはその映画の中で、ある登場人物の一人に「人間の心の問題が解決されなければ科学の進歩など意味がない」と語らせていたのは、技術の進歩は止められはしないが、多くの人への大きな問いとして、心に残る一言でした。
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