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【読書】旅ドロップ
私は旅が好きだ。
一人気ままに巡る旅も、気の合う友人や家族とわいわい楽しむ旅も。
どんな旅にしようか思考を巡らせながら立てる計画も、決してその通りにならない旅程も堪らない。
普段過ごしている場所から少し足を踏み出してみる時の高揚感は言うまでもないだろう。
だから、このエッセイ集にはどんな“旅”が詰め込まれているのかとても気になったのだ。
《旅ドロップ》
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著者は、江國香織さん。
このエッセイ集はまるでそう、ドロップ缶。
タイトルの通りにカラフルで、キラキラしていて、だけどどこか落ち着いていたり、少し寂しかったり、ひとつひとつ味わいが違うドロップが詰め込まれている。
一編一編は読みやすい短さだが、物足りなさを感じることなく、その後味は爽やかさすら感じる。
読み始めた時はこのエッセイ集は著者の旅先の話だけかと思ったが、日常生活の中に旅を見出す話も多かったのが印象的だった。
例えばそう、夫の背広のポケットから出たお菓子から他人の旅を想像する、など。
家族や友人、または職場の同僚からの旅のお土産はご当地のお菓子だったり、ちょっと小洒落た日用品だったり。
果たして私はそこからどのような旅だったのか思いを巡らせたことはあっただろうか。
いや、きっとない。
お菓子を貰えば、美味しそうとお礼を伝え。
日曜日を貰えば、どう使おうかとわくわくしたりして。
だけどお土産ってそれだけではないのかと、お土産の楽しみ方をひとつ学んだ気がする。
どんな旅だったのか想像を巡らせて、きっと私は最後に自分だったらどのような旅になるのか、私はそのお土産が買われた地をどのように楽しむのかと考えるのに忙しくなりそうだなと思った。
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そして、このエッセイ集で印象的だったことがもうひとつ。
それは、日帰り旅行に必要な距離と時間は、伸縮自在だということ。
私にとって旅とは、飛行機とか電車とかを使って移動するような距離の土地に行くことだと思っていた。
だから、旅は好きだけれど、あまり旅をできていないなと勝手に落ち込んでいた。
学生の頃は、学業や部活優先に加えて旅の資金がなくて。
社会人になってからは、限られた休日全てを使って旅はできるものではなくて。
そんな理由で私は思ったように旅をできていないと感じていたが、そうではないのだと言うことに気づいた。
するとどうだろう。
あの日帰りでのお出かけも、実はちゃんと旅だったのだ。
みるみるうちに私の中での“旅”が一気に増えた気がした。
全然旅ができていないと落ち込むこと勿れ。
きっと私は、自分が思っているよりも旅をしていて、思っているよりも旅ができるものなのだ。
彼の地に思いを馳せることも、貰ったお土産から相手の旅を想像することも、その日のうちに行って帰ってきたお出かけだって、それは立派な“旅”なのだと。
きっと私の日常には、私の気づいていない“旅”が溢れている。
もっともっと、旅を楽しみたくなった一冊だった。