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【読書】利尻島から流れ流れて本屋になった

2025年正月休み明け。
今年初めに何を読もうと図書館の本棚を眺めていると、利尻島の文字が目に入った。
子どもの頃、数年間だけではあるが北海道最北端の稚内に住んでいた私。
たまたま目に入ったそのタイトルはあまりに懐かしく感じ、見過ごすことができなかった。
思わず、手に取ってみる。 


利尻島から流れ流れて本屋になった

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著者は工藤志昇さん。
利尻島出身で札幌の現役書店員さん。
帯には、最北の風味豊かなエッセイ集と謳われている。

表紙の昆布とウニの帽子が可愛くて、そこでまずほっこり。

面白くさらさらと読めてしまう文章。
孫の目線から見た祖父母のエピソードは微笑ましかったり、少しクセが強かったり。

地元民だからこその目線での利尻島はなんだか親近感が沸いてしまったり、観光地としての利尻島以外にも魅力を感じた。

利尻島には何度か訪れたことがある。
学校の行事で2日間かけて、利尻島を歩いて一周するという体験をしたことも久しぶりに思い出した。

どこか素朴で、だけど少しクセがあって、でも何気ない家族や友人のエピソードをたくさん読むことができた。
それは思わずクスッと笑ってしまったり、お隣とはいえ稚内に住んでいたことがあるからこそわかるエピソードもあった。

そして私が一番衝撃を受けたのは、《最果てにて》の章である。
恥ずかしながらこの本を読むまで、日本最北の書店、クラーク書店中央店が閉店したことを知らなかったので、それはそれは驚いた。
稚内に住んでいた頃、お世話になった。
お小遣いをやりくりしながら、参考書や漫画、雑誌を購入していたものだ。

閉店のことが書かれているページを開いた時、本当にびっくりして何度も読み直してしまった。

しかし当たり前だが、なんど読み直しても文章が変わるわけではない。

稚内での思い出がひとつ静かに幕を下ろしていたことをようやく受け入れることができた時、なんだか寂寞の思いが溢れてきたような感じがした。

瞼を閉じると、私の記憶の中のクラーク書店中央店が瞼の裏に浮かんできた。

私が利用したのは稚内に住んでいた数年間だけだったが、あの頃はお世話になりました、ありがとうございますと伝えたくなったのである。

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そして、「あなたにとって本が好きとはどういうことか」
書店員である著者にとってのその答えを読んだ時、なんだか安心してしまった自分がいる。

本が好きなことに特別な理由とかはいらなくて、好きなものは好きで良いのだと学んだ。

だから私はこれからも胸を張って「本を好き」でいようと思った。

読み終わって本を閉じた時、目を閉じるとあの美しい利尻島が、耳を澄ますと潮風の音が、そしてあの北の海の匂いがした気がしたのである。

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