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実質10割となる出生後休業支援給付(R7.4開始)の全体を理解する
2025年(令和7年)4月から、育児休業に係る給付額が一定期間(最大28日間)実質、10割になります。なお、本制度が新設されたことで、既存の育児休業給付金の制度など、様々な仕組みを横断的に理解していなければ、育児に係る給付制度がよく分からないと思いますので、出来るだけ分かりやすく説明してみようと思います。
1.概要
新設される出生後休業支援給付は、子の出生直後の一定期間以内(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)に、被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する場合に、最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額を給付し、育児休業給付とあ わせて給付率80%(手取りで10割相当)へと引き上げることとする。【令和6年6月21日職業安定分科会資料より】
となっています。
※ 配偶者が専業主婦(夫)の場合や、ひとり親家庭の場合などには、配偶者の育児休業の取得を求めずに給付率を引き上げる。
給付要件のポイントとしては、
・男性は子の出生後8週間以内に育児休業を取得すること
・女性は産後休業後8週間以内に育児休業を取得すること
・被保険者と配偶者両方が14日以上の育児休業を取得すること
であり、夫婦両方が子の出生後速やかに育児休業を一定期間取得することを促進するための制度となっています。
なお、育児に係る給付金関係全体を画像で表すと次のとおりです。因みに、今回の出生後休業支援給付は、黄色の部分になります。
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2.育児休業給付金(上記画像:緑色部分)
雇用保険制度の知識がある方であれば、上記の画像を見ればすぐに分かると思いますが、殆どの方はあまり全体を把握されていないと思いますので、各種制度を分解してご説明します。
育児休業給付金は、育児に係る給付制度の中で、最もメジャーな給付金の一つです。育児休業を取得した者に支給され、原則、子どもが1歳になるまでが対象です。給付額は、休業開始時賃金日額×支給日数×67%(育児休業開始から181日目以降は50%)で計算された金額が支給されます。
なお、ポイントとして、当該給付は、「育児休業」に係る給付であるということです。
※1上記画像では、1歳2ヶ月まで父に育児休業給付金が支給されていますが、これは、「産後パパママ育休プラス」制度により、育児休業の取得期間が2ヶ月延長された場合を想定したモデルとなっています。なお、産後パパママ育休プラス制度の詳細な説明は、割愛しますが、要は、両親がともに育児休業をする場合に、一定の要件を満たすことで、育児休業の対象となる子の年齢が、1歳2か月にまで延長される制度です。
3.出生時育児休業給付金(上記:青色部分)
令和4年10月に創設された比較的新しい制度で、父親等(※2)が出生時育児休業(産後パパ育休)を取得した場合に支給されます。給付額は、休業開始時賃金日額 × 休業期間の日数(28日が上限)× 67%で計算された金額が支給されます。(育児休業給付金と同じ計算という理解で問題ありません。)
なお、ポイントとして、当該給付は、「出生時育児休業(産後パパ育休)」に係る給付であるということです。
※2養子縁組をした場合など、法律の要件を満たす場合には、女性であっても当然に対象となります。
ここで、育児休業とこの出生時育児休業の違いにも触れておきますが、出生時育児休業は、主として男性の育児参加を促すことを目的に作られた制度で、労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲内で休業中の勤務が可能となります。育児休業は休業中、原則、就業不可であったことから、少しでも働きながら育児に参加しやすくる制度として導入された背景があります。なお、父親等(※2)については、子の出生後8週間を経過するまでであれば、育児休業又は、出生時育児休業のいずれかを選択できますのでご留意ください。
4.出産手当金(上記画像:ピンク部分)
産前産後休業期間に支給される制度で、過去12ヶ月間の平均標準報酬月額の2/3が支給されます。なお、補足ですが、当該手当金は、育児休業給付金、出生時育児休業給付金と異なり、健康保険等の医療保険制度からの支給になりますので、ご自身の加入されている医療保険制度(例えば、自営業の方であれば、国民健康保険)によって支給額や要件が異なる場合がありますのでご注意ください。
ここでもポイントとして、確認しておきますが、当該手当金は、「産前産後休業」に係る手当金であるということです。なお、上記画像ではピンクの部分が出産後しかありませんが、産前の期間(42日(6週間×7日))にも当該手当金は支給されますので、ご注意ください。
5.出生後休業支援給付(上記:黄色部分)
繰り返しになりますが、子の出生直後の一定期間以内(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)に、被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する場合に、最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額を給付し、育児休業給付とあ わせて給付率80%を支給する制度です。実質10割と言われる部分については、健康保険料や厚生年金等の社会保険制度の保険料が、育児休業期間及び出生時育児休業期間は免除されるため、その分を加味して「実質10割」という表現が用いられています。
ポイントしては、当該給付は、「育児休業」若しくは「出生時育児休業」に係る、「育児休業給付金」又は「出生時育児休業給付金」の上乗せであるということです。
6.出産育児一時金(上記:記載無し)
上記画像に記載はありませんが、出産に係る給付として、出産育児一時金があります。当該一時金は、健康保険の被保険者又は被扶養者が出産された場合に48.8万円~50万円が支給される制度です。
重要なポイントしては、当該一時金は、出産した時に支給される制度ということです。
7.まとめ
以上のように育児に関する給付制度は、複雑であり各種制度が何の休業に係る給付なのかを整理することが、全体を理解することに繋がりますので今回ご紹介させていただきました。
なお、国としては、出生後休業支援給付が支給されることで実質10割となることを謳っていますが、この期間は28日が上限であり、その後は、従前と同じ給付額となることから、取得を促進する制度だと言えます。
直近の男性の育児休業の取得率は17.13%(前年3.16%増加)となっていますが、女性の約80.2%(前年4.9%減少)と比較してもまだまだ、取得率が低いといえますので、どれだけ取得率の上昇に繋がるか期待したいところです。
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