シクラメンと私、そして秋子。
シクラメンが球根植物だと知っていますか?
何がきっかけは忘れたけど、それを知ったのは最近の事。
冬に花を咲かせた後、葉や茎は枯れてしまう。
でも球根は土の中で眠る。
次の季節がやって来るまで休眠するのだ。
あの頃、それを知っていたら、もしかしたら、あのシクラメンはまだ私の手元にあり、毎年ちゃんと咲いてくれていたかもしれない。
19年前、ここに引っ越してくる前、数か月間だけパリで仮住まいしていた。
その住まいには小さいけれど、バルコニーがあった。
住んでいたのが真冬で、そのバルコニーは北向きだったので、ほとんど使うことはなかったのだが、それでも少し解放感があった。
部屋には大きな鉢植えのシクラメンがあり、深いピンク色の花を沢山咲かせていた。
真冬が花のシ-ズンなのに、きれいに咲いてくれていたのはほんの短い間だけ。
花の時期は意外と短く、葉も茎も日ごとに元気をなくしていったのがわかった。
花は好きだけど、花の育て方が下手な私。
水やりの加減がよくわからない。
今までも幾度となく
いくつもの植物を枯らせてしまった。
でも、このシクラメンだけは、枯らせたくない。
なぜなら
これは、義母からの結婚祝いの贈り物だったから。
育児より花を育てることに長けていた
実家の父に相談してみた。
そして、このシクラメンに足りなかったものを知る。
それは、光、太陽。
部屋に十分な光が入らなかったことが大きな原因の一つだということがわかり、朝晩の冷え込み時を避けて鉢をバルコニーに出してみた。
ただでさえどんよりとした冬のパリ。
北向きのバルコニーに
光が射すことはほとんどなかった。
そこで私がとった行動、それは、比較的天気の良い日にシクラメンを近くの公園へ持って行き、日光浴させること。
ペットの犬を散歩に連れて行くように
花を連れていく。
そして、ベンチに座って鉢を隣に置き
日光浴をしながら本を読む。
天気が良い日は、こんな風に過ごしていた。
3月。
だんだんと日が長くなり、お日様も冬のそれとは違った表情をみせてくれるようになっても、私のシクラメンは元気を取り戻すことはなかった。
人がお医者様にかかるように
動物にも獣医さんがいる。
なぜ、植物にはお医者様がいないのだろう。
助けてくれる人がいないのだろう。
あれからもう19年たった。
ある日、こんな文章に出会う。
またお願いします。
若い女性がすまなそうな笑顔で、
鉢を置き言った。
都心部にあるにも関わらず、
知る人ぞ知る場所。
お洒落な町並みで、
景観をみださぬよう精一杯頑張った鉢植え達は、
ここに来て療養する。
そうやって都会の鉢植えは、
うまくロ-テ-ションを組むのだ。
毎朝、カフェやヘアサロンのスタッフが、誰かしら軽トラでやって来る。
はじまりのはじまり『緑の療養所』シモ-ヌさんの作品より
お話の続きを自由に続けるシモ-ヌさんの企画だった。
そして、はじまりの続きを綴ってみた。
私は、この物語の中にいた。
19年前の私は
すでに80歳の秋子になって公園のベンチに座っていたのだ。
秋子のように暮らしてみたい。
もしもそれが叶うのなら。
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