シチリアの旅② ~ ノート カフェ・シチリア編 ~
さて、シラクーザに一泊した後、僕は早朝からノートという街に向かいました。
そこには目的のお店「カフェ・シチリア」があります。
「カフェ・シチリア」はイタリア全土、今や世界の中でも名を知られているパスティッチェリアです。
特にパティシエのコラード・アッセンツァは地元の天然素材を、添加物・着色料・保存料などは一切使わずにドルチェに落とし込み、地元の一次産業を保護しながらも、世界に名を轟かせた功労者です。その様子はNetflixなどでも閲覧することができます。(chef's table pasticceria編)
お店に到着すると色とりどりのドルチェがショーケースに並んでいます。
しかしながら、ここに来たならまずはやはりあれを食べなければ始まりません。
「アーモンドのグラニータとブリオッシュ」
僕はこれまでシチリアでは朝食にグラニータとブリオッシュを一緒に食べるという文化があることを知りませんでした。
まず一口食べて「えっ?」と思いました。
想像していた味と違ったからです。
「あっ、アーモンドミルクか。」
僕は気づきました。
僕は何となくおつまみのミックスナッツに入っているような、ローストしたあのアーモンドの味を想像していました。
でもそれはスイートアーモンドで、これは杏仁豆腐のような風味のするビターアーモンドのエッセンス。つまりアーモンドミルクです。
しかしそれは日本で口にしたような、甘ったるいそれではありませんでした。
甘味はとても軽やかで、ナッツ特有の苦みを感じる繊細な味でした。
僕は他のドルチェも注文しました。
どちらも二つ以上の素材を組み合わせたケーキなのですが、まるでイタリア人夫婦のように、どちらの素材もお互いを邪魔せずにはっきりと自分を主張してくる、心地よいマリアージュを感じました。
このジェラートは今まで食べたジェラートの中で一番美味しかったです。
地元の羊のフレッシュリコッタチーズをほんの少しラムで香りづけし、刻んだ生のピスタチオを絡めた上質な味。
朝から甘いものを食べ過ぎだとは思いますが、僕はどうしてももう一品だけ試してみたいものがありました。
それはレモンのグラニータです。
カフェ・シチリアの常連客の朝のグラニータは、アーモンド派とレモン派に分かれるほどの人気商品です。
というか自分の好奇心から、この偉大なパティシエがレモンという言ってみればありきたりな食材をどのように表現するのかを知りたかったのです。
だから僕は店を出た後、次の電車までまだ時間があったので、公園で30分ほど休憩し、また店に戻りました。
するとメニューに半分サイズのグラニータもあったので、迷わず注文しました。
それはまさしくレモンまるごとでした。
日本のレモンと違い、尖った酸味は感じられず、優しい甘味と皮に近い部分のかすかな苦みがとてもバランスよく口の中で溶けてゆきます。
ああこれでよいのか。
僕は思いました。
食材一つの中にも幾つもの味が隠れていて、それを引き出してあげることで、シンプルだけど複雑な味になる。
あれこれと足し算を繰り返すような方法ではない、和食にも通じる表現の一つを見た気がします。
僕は彼の哲学も含めて、こういうお店を日本でつくりたいのかもしれないと感じました。
口の中に残ったレモンのかすかな余韻を感じながら、ノートの街の坂道を、駅に向かって下って行き、午後はラグーザへ向かいます。