たかだ

ここでは怖い話を書きます。 『ホラーの哲学』という本を訳しました。 https://www.amazon.co.jp/dp/4845919206/ref

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【怖い話】 禍話リライト 怪談手帖「やらいさん」

 中学校時代の同級生だったAさんは、僕と同様、幽霊の類を見たことがないという人だった。とはいっても、僕と彼女とでは事情がだいぶ違っており、僕の方はさしたる理由もなく、ただ単にそういう感受性や感覚が皆無であやしいものに出会わないのに対し、Aさんの場合は、はっきりした理由があった。  ——御利益を受けている。  彼女の一家が頼んでいる「神さまのようなもの」のおかげで、幽霊だとかお化けだとかから、「守られている」のだと。  当時の彼女は、霊感だ何だといった話題になったとき、そのよう

    • 近所の歴史を調べる - 『新編武蔵風土記稿』の引き方

      もしあなたが関東に住んでいて、自分が住んでいる場所の歴史について知りたければ、『新編武蔵風土記稿』を引く方法を知っておくとよい。 『新編武蔵風土記稿』は、江戸時代に編まれた書物で、当時の関東地方のカタログ的な本である。小さな村でもだいたいは載っている。 新編武蔵風土記稿 - Wikipedia 地元の郷土史を調べる場合は、まずはこれに当たるのがよいというタイプの本である。そしてオンラインで読むことができる。とはいえ、慣れないと調べ方がちょっと難しいので、それを書いておこ

      • 【怖い話】 禍話リライト 「赤い手形の家」

        Aさんが別の地方の大学に通っていた頃の話。 「心機一転、新しい友だちを作るつもりで遠くの大学を選んだんです」とAさん。 「結局この件があって、大学時代の知り合いとは連絡を断ってるんですけどね……」 大学では、とある文化系のサークルに所属していた。文化系のわりに上下関係の厳しいサークルで、飲み会で酒を後輩に強要する文化が蔓延している。そうしたサークルの雰囲気が苦手で、自分が先輩の側になってからも、自分がされて嫌だったことはしないように気をつけていた。 サークルの後輩の中に、怖

        • 【怖い話】 AIとの対話

          ※ 以下の結果は捏造です。 以下は、いわゆる霊感の有無を知るための有名なテストを、対話型AIであるChatGPTに実行させた結果である。なお、このテストでは、想像の中で自分以外の誰かに遭遇した人は霊感があるとされている。

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        【怖い話】 禍話リライト 怪談手帖「やらいさん」

          【怖い話】 禍話リライト 「大口女」

          井上陽水じゃないんですけどね、川沿いのホテルらしいんですよ。 川といってもすごく狭い川です。川というより溝みたいな。 別にそんなに良いホテルじゃなくて、 出張で泊まったビジネスホテルですけど。 そこが普通に怖いって言うんですよ。 部屋にはこーんな大きな鏡がありました。 壁に備えつけの鏡です。 それが何だか怖いなぁって思ったんですって。 部屋を行ったり来たりするたびに自分の姿が映るでしょう? 何もおかしいことはないんですけど、鏡に映った自分を見て、 一瞬、誰かいるのかと思って

          【怖い話】 禍話リライト 「大口女」

          【怖い話】 禍話リライト 「ごとん!」

           最近はそうでもないかもしれないけれど、コロナ禍の生活というのは、どうしても同じルーチンの繰り返しになりがちなものだ。これはよく聞く話でもあるし、自分の実感としてもよくわかる。外出する機会も少なくなって、毎日同じ場所で同じことを繰り返すだけ。止むを得ずそんなワンパターンの暮らしを送る人も多いのではないだろうか。  Aさんはそんなルーチンの繰り返しの中で、ほんの少しだけ、いつもとは違う行動をとった。  これはそんな些細な変化がきっかけとなった出来事の話だ。  Aさんはその日、

          【怖い話】 禍話リライト 「ごとん!」

          【怖い話】 禍話リライト 「黒い着物」

          いわゆる実話怪談や体験談の中には、これは本当は、もっと長い物語のほんのさわりの部分なのではないかという予感を与えてくれるものがある。 この黒い着物の話もそのひとつだ。ただし、この話に関しては——あくまでわたしの受けた印象にすぎないが——もしすべてが語られていれば、本来は、いわゆる「感染系」の話(聞いた者に影響を及ぼす怪談)なのかもしれないと思わせる要素がある。 だが、幸いにも、この話が感染したという噂は聞かない。それはひょっとすると何か重要な細部が欠落しているせいなのかもしれ

          【怖い話】 禍話リライト 「黒い着物」

          【怖い話】 禍話リライト 「指増え」

          これは北九州の話だな。 照明がきちんとしていて夜でもかなり明るい公園らしいんだ。 そこにはいつも、近所の人が誰も知らない老人がひとりいる。 野宿生活者というわけではなく、身なりはきちんとした人だ。 ただベンチに居ついて、夜の十一時頃までそこにいるらしい。 職務質問とかされないのかと思うんだけど、別に平気なんだ。 なぜかは知らないけど、そこは警官も全然来ない場所だから。 そこのトイレに夜中に行ったやつがいるんだ。 そこら辺に住んでるやつじゃないよ。だから噂も全然知らなかった。

          【怖い話】 禍話リライト 「指増え」

          【怖い話】 禍話リライト 「大丈夫ですよ!」

           それは体育館だという。学校の体育館なのか、市民体育館なのか、新しいのか、古いのかといったことまでは聞いていない。わかるのは、天井が高く、大きな窓が並んだ、どこにでもあるような体育館の建物というだけだ。  Tさんは仕事帰りだった。時間は夜の十一時頃で、この辺りではまだぽつぽつと人通りも見られる時間帯だ。大通りを歩いているうちに、普段通らない小道が気になって、ふらっと入ってみた。それが体育館の脇を通る道だった。  左手の道路越しに、敷地内の電灯に照らされ、体育館の白い壁が明るく

          【怖い話】 禍話リライト 「大丈夫ですよ!」

          【怖い話】 禍話リライト 「高速バスガイド」

          高校の同窓会で、かつての恩師に再会する。 高校時代にはタブーだった酒を堂々と飲み、対等な大人として先生と顔を突き合わせて語り合う、懐しくも晴れがましい機会だ。 そんなとき、高校生には教えられなかった秘密を、改めて知ることがある。ミウラさんの場合は、元副担任のホンダ先生から秘密を打ち明けられた。 ことの起こりは、修学旅行の記録ビデオの話題だった。 当時副担任のホンダ先生は、旅行中の撮影係を任されていた。カメラ片手に走り回る姿が印象に残っている。 「そう言えば、ホンダ先生、移動

          【怖い話】 禍話リライト 「高速バスガイド」

          【怖い話】 禍話リライト 「おかあさんの家」

          「あれは、本物の母親じゃなくて、何かわけのわからないものが、お母さんのフリをしていたって話だと思うんだけど……」 現在は理系の研究者をしているというTさんがまだ院生の頃の話だ。 同期にKくんという好青年がいた。 いつも愛想がよく、誰とでもわけへだてなく打ち解け、人の悪口なんて絶対に言わないタイプだ。ただ、ふと影のある表情を覗かせることがあって、ひょっとしたら、意外に暗い過去でもあるのかもしれないな、と思っていた。 後に、同期のふたりだけで研究室の飲み会の買い出しに行く機会

          【怖い話】 禍話リライト 「おかあさんの家」

          【怖い話】 禍話リライト 「くずし字FAX」

          「それは間違いFAXからはじまったんですよね」 Aさんが中学生の頃。 ひとりきりで自宅の留守番をしていたときのことだ。 ふだんめったに使わない家のFAXが急に動きだした。 おや、めずらしいなとは思ったが、それだけであれば驚くほどのこともでもない。 あれっ量が多いぞ。 これは……お経か? 送られたFAXには、筆で書かれたくずし字のようなものが何行も記されている。実際にはお経ではなかったかもしれないが、お葬式で渡される、ふりがながついたお経を連想した。 そんな内容が、目の前で都

          【怖い話】 禍話リライト 「くずし字FAX」

          【怖い話】 禍話リライト 「書き物の先生」

          これは、子どもの習い事が、かろうじてまだ一種のステイタスだった昭和の話だ。 当時高校生のヒグチさんには、中学生の弟がいた。 弟はよく「オカモトさんの家に行ってくる」と、どこかに出かけていく。 ヒグチさんは、「オカモトさんの家」が何なのか知らなかったが、おそらく習い事だろうと思っていた。つまり、自宅で書道教室やピアノ教室を開いている家だ、と。 もちろん、友だちの家かもしれない。単純に「オカモトさん」という呼び方が、友だちというより目上の相手に思えたので、そう理解していた、という

          【怖い話】 禍話リライト 「書き物の先生」

          David and Stephanie Lewis「穴」

          デイヴィド・ルイス、ステファニー・ルイス「穴」(David Lewis & Stephanie Lewis, "Holes", 1970)を全訳したので売ります。 以下から閲覧・ダウンロードできます。PDFで100円です。 これはデイヴィド・ルイスとステファニー・ルイス夫妻による穴の存在をめぐる対話篇で、「唯名論的唯物論」のがんこな支持者アーグルと、その友達バーグルが穴の存在を巡って議論します。 ゆかいな哲学者二人組のああ言えばこう言うユーモラスな会話が楽しい対話篇です

          ¥100

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