見出し画像

【読書感想】文豪たちが書いた殺しの名作短編集  叶

前々から

読書量が少ない

読む作家(好み)が偏る

という自分の傾向からあまり良くないものを感じ、
いわゆる文豪と呼ばれる人たちの作品も触れておきたいなと考えていました。

しかしわたしの地元の書店に並んでいるものはパンを焼いたり占いをしたり、
はたまたNISAや話し方で財を成して異世界に転生することが好きな人に向けた書籍が多くなかなか心惹かれるものが見つかりませんでした。
どうしたものかしらと悩んでいたところ、
地元から少し離れた書店にてこちらを発見しました。
タイトルに一目惚れ。

 
収録作品は以下の通りです。

彼を殺したが……/久生十蘭
捕われ人/小川未明
百面相役者/江戸川乱歩
途上/谷崎潤一郎
可哀想な姉/渡辺温
犯人/太宰治
疑惑/芥川龍之介
桜の森の満開の下/坂口安吾
窮死/国木田独歩
恐しき通夜/海野十三
牛人/中島敦

 

文豪ストレイドッグスで見た人たちばかり。誰がなんと言おうと文豪。文豪の詰め合わせ。
 
今回はこの短編集の中で特に気に入った三作品について書いていきたいと思います。


  
一番おもしろかった作品は『途上』。
100人にこの短編集を配っても半分近くはわたしと同じように答えるのではないでしょうか。
誰が読んでもおもしろさがわかる親切さと読みやすさが有り難かったです。
わたしは後半に『答え合わせ』をするような作品が好きで、まさにこちらはそのような感じ。
どうなるのかとハラハラしつつ、
そうきたかと納得する。
気持ちよく読めました。


 
一番好きだった作品は『可哀想な姉』。
この短編集の中でトップクラスに後味が悪い作品。
(1位はダントツで『恐しき通夜』。
後味というより薄気味悪いが正しいかもしれません)
わたしにとって初めての渡辺温作品でした。
本名は「温」と書いて「ゆたか」と読むらしいです。
お洒落な本名とペンネームの遊びもいいなぁと思いました。
さて、内容について。
とある訳アリ姉弟の話でした。
終始「どうしてそういうことをするの?」といった気分。
最終的には「なんてこったい」と「読めてよかった」という感情が両立する作品でした。

 
 
一生に一度でいいから使いたいフレーズが出てきた作品は『疑惑』。
太宰治の「とんだ、そら豆だ。」に匹敵する激熱フレーズが出てきました。こちらです。
「(以下八十二行省略)」
フレーズではなく表現とした方が適切ですね。
最初は意味がわからなくて、
出版するにあたって八十二行も省略せざるを得ない理由があったのかと調べてみたところ、
原文そのままだそうで。
とんだ芥川でした。まいった、まいった。
わたしにも八十二行省略すべき何かが出てこないかしら。
 
 
と、こんな感じでした。
平成に入ってから出版された作品ばかり読んで、
やわやわの口語体に甘やかされ育ったわたしは明治から昭和のかたい文章に少々苦戦しました。
知らない語彙や言い回しが出るたびにノートに書き出して調べながら読むのも普段の読書とは違いましたが、
学生時代にやり残した学習をしている気分(あくまで気分)も味わえてなかなかに楽しかったです。
こちらの短編集はテーマを変えて他にもいくつか出版されているようなので、
今後はそちらも手に取りたいと考えています。
 
ここからはおまけ。
『恐しき通夜』を読み終わりカタカタ文章にくたびれてやわやわ文章が恋しくなって来たときの話です。
よしこれで最後、と読み始めた『牛人』の書き出しが「魯の叔孫豹がまだ若かった頃」で心が折れかけました。
みなさんもラスボスは中島敦なので気をつけて。
 
それではまた。


いいなと思ったら応援しよう!