パリに行きそびれて北海道に行った話
北海道が好きだ。
いつか住んでみたいと思っているほど、好きだ。
いやいや、北海道の生活はそんな楽なもんじゃないよ。冬に1ヶ月だけでも住んでみたらよくわかるよ。
と、北海道に住んだことのある人から言われたことがある。
たしかにそうだろう。私の「好き」は、ただ観光で行ってきれいなものを見て美味しいものを食べただけの人間の感想にすぎない。
しかし、私の北海道への憧憬の念は変わらない。
私の前世はマリー・アントワネットだと思っていたが、もしかしたらキタキツネなのかもしれない。
初めて北海道に行った時の感動を、今でもよく覚えている。
飛行機の中から見えた風景が、すでに本州とは違っていた。
筆ですっと書いたような海岸線。パッチワークのような広大な畑。まさに「北海道」だった。
新千歳空港から札幌に向かう電車は、そこそこの時間がかかったように記憶している。だがちっとも飽きなかった。
街路樹や公園の木々が私が住む地域では見かけないものだったし、民家の造りも違うように見えた。玄関が二重になっているのはやはり冬の寒さや降雪のためだろう。西日本ではあまり見かけない煙突がある家も多い。大きな灯油タンクと思われるものが、ほとんどの民家に備えられている。周りに塀がない家が多いのも冬の積雪への対策なのか。
見るものすべてが新鮮だった。
その後私は何度か北海道を訪れる機会を得たが、そのたびにこの感動を味わった。
そんな北海道に、思いがけず行ったことがある。まったくの予定外だった。
ある時、私と友人は旅行を計画した。
公務員の友人は勤続何年かのご褒美に1週間の有給休暇がもらえることになったそうだ。私も有給休暇が余っていることもあり、ふたりで旅行に行こうと合意したのだ。
せっかくの1週間の休みだ。ふたりとも行ったことのないヨーロッパにしようと話はまとまった。
実行予定は12月。クリスマス前のヨーロッパはどんなに素敵だろうと、まだあまりスレていない時代の私は胸をときめかせた。
行き先は、あまり迷うことなくパリに決定した。
12月のパリ。
フランス通の方は、そこで眉をひそめるかもしれない。
私も、フランス駐在の経験がある友人から「12月のフランスは◯◯◯◯◯が多いんだよねぇ」という愚痴を聞いたことがあったのだが、それをすっかり忘れていた。
この◯の中に入るカタカナ5文字、おわかりだろうか。
ストライキ
である。
もはやフランスの風物詩とか冬の季語とかまで言われているとかいないとか。
年中行われてはいるが、特に11月下旬〜12月に多いようだ。
それに、ガチでぶつかったのだ。
最初は「まあそのうち収まるでしょ」と楽観していた。
しかし、日々激化する状況がニュースでも流されるようになり、全国的ゼネストに発展し、ついにはシャルル・ド・ゴール空港で暴動が起こり閉鎖される事態となってしまったのだ。
旅行会社の担当者と何度もやりとりし、出発の前々日に中止が決まった。
しかし私たちは(主に私は)諦めなかった。
パリについていっぱい勉強したし観光計画も完璧にたてた。直前に中止って、この熱い思いをどこにぶつけろと言うのだ。
旅行会社の女性社員は、この思いを受け止めてくれた。もうヨーロッパならどこでもいいから行かせてくださいと泣きつく私のために頑張ってくださった。
トランジットがスキポール空港だったからオランダはどうか、いやイギリスはドイツは、と、あらゆる可能性を探ってくださった。
しかし、航空券はなんとかなってもホテルがとれず、ヨーロッパは涙をのんで諦めることとなった。
私たちは「冬のヨーロッパ」に対応する準備しかしていなかった。つまり、極寒向けの服を購入していたのだ。せめてこれを無駄にしたくない。
そうして私たちは、北海道へと急遽行き先を変更した。
その時の写真がこれだ。
その年の札幌は、いつもより厳しい冬だった。小樽まで足を延ばしたが、大雪で観光客もまばらだった。
大雪であまり観光はできなかったが、北の大地はあたたかく迎えてくれた。店やタクシーの中では何度も優しい声をかけてもらった。
帰りの飛行機は乗客も少なく、CAさんがこの顛末を聞いて慰めてくださった。
いろんな意味で、忘れられない思い出になった。
なぜこの話を今日書いているかというと、本日札幌であるイベントが行われるからだ。
私も大阪でお会いしたことのあるnoterさんが初出店されるそうだ。
「文学フリマ札幌9」
本日11時から開催されます。
私が少し参加させていただいた「ウミネコ童話集」も、ウミネコ制作委員会編集長が東京から持参して販売されるそうです。
いぬいさん、ぼんらじさん、がんばってください。
そしてこのために札幌を訪れる方、北海道は本当にあたたかいところです。
皆さま、楽しまれますように。