短歌「夏の記憶」

気づけば八月も中旬。息子の夏休みがつい先日始まったばかりなので、まだ七月のような気分でいました。
短歌作りの練習として、「夏の記憶」をテーマに三十九首。幼稚園くらいから高校生までの夏の記憶を少しずつたどってみました。


砂利だらけの庭で転がすとりたてのスイカ思わぬほうへとジャンプ
浴衣着て兵児帯締めて踊るのは練習重ねたよーちえん音頭

朝顔にアルミホイルを巻きつけて昼の朝顔観察日記
背丈より大きく伸びたライオンのような黄色いひまわりの花
イベントも日付も天気もすべからくねつ造していた夏の絵日記

二百二十五人が笛の合図にてひたすら撹拌していたプール
光化学スモッグ注意報が出て水着ひきずり家へと戻る
学校に父親ばかりが集まって中庭に池を作ってくれた

水着着てビーサン履いてじいちゃんの車に乗って夏が始まる
手をひかれ深いほうへと導かれ左右どころか上下も海に

とうみぎを取りに下の畑までばあちゃんと行く帽子かぶって
降る蝉の声聞きながら西向きの座敷の奥の隅の日陰に

この中で二冊選んでいいよって課題図書じゃないのがいいのに
甲子園応援している最中に食パン一斤買いに出される
遠くにいる馬の背中を撫でてみる夕陽がつくるながーい影の

メロン型容器に入ったアイス買う団地の前の酒屋の店先
住民が体育館に集まって体育座りで映画を見た夜

扇風機の真ん前に顔を突きだして大声を出す「わああああああ」
シルバニアは全員毛皮を着てるから夏はみんなで水浴びパーティー

夕立のようやく去った縁側にカミナリさまがおへそ落としてた
クーラーが壊れて修理に来たおじさん「カミナリさまが落っこちたんだネ」

クーラーをつけっぱなしで眠ったら風邪ひいて死ぬと脅されていた
クーラーをつけて眠ったら死んじゃうとかまるで雪山遭難のよう

浴衣着てハッカパイプをくわえれば宵闇の中に夏の終わりが
神輿引き目指すはいつもの氏神さま人口密度三十倍の

二学期の準備なんてしたくないあんなところに行きたくはない
ブザー押しバスを今日で止めてしまいたくなるような八月末日

ドーンという音聞きながらそぞろ歩き友だちの数を競うイベント
ブゴゴゴという発電機にも勝るあたしたちのキャハハハハハハ

合宿の代わりの強化練習でアタマの皮膚が日焼けでむけた
日焼けして真っ赤な顔を濡れタオルでおさえる友を見ている夕日
先生のポケットマネーで缶ジュース買い出しに行く夏の夕方

久しぶりに制服を着る登校日キュウクツだってこと忘れてた
午後六時部活終わりの音楽で校舎の向こうに夕日が落ちる
八月の三十日に思い出す計算ドリル忘れてたって

雨降ってもどうせ濡れるから関係ない水温あれば水泳の授業
水着着て帽子かぶってタオル持って駐輪場にならぶ可笑しさ

夏期講習こんなの簡単ですねって先生が言うそんな気もする
八月の静かな校舎で今までに話したことない人と話した


こうして短歌を作るために、子どもの頃の夏を思い返してみると、幸せだったんだなと思います。30年後、今の自分をふり返ったら、どんな短歌ができるんだろう。なにが30年後まで記憶に残るのでしょうか。

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あさのしずく
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