【創作】幼馴染の部屋で【スナップショット】
夜も更けてきたね
そうだね
今日お母さんたちは
帰って来ないんだってさ
そうなんだ
そろそろ寝るから
一緒にベッドに来て
また?
この横に
そう、ありがとう
あなたと一緒なら
またいい夢が見られる気がする
この前のは素晴らしかった
どんな夢?
私が好きな
あの人と一緒に
橋の上を渡っている
太陽は綺麗に輝いていて
でも辺りは霧が立ち込めていて
ふわふわ浮かんでいるみたい
私たちは楽しいことを言って
笑いあって
手をつないで森の中に歩いていった
確かに心が通じ合っているように
思えたの
夢の中ではね
うん、現実だと話せないけど
ねえ、この前
古文の授業で教わったんだけど
昔の人は
夢の中に誰かが出てきたら
その人が自分を思っていると
信じていたんだって
そうだね
今では
自分の無意識の
欲望だって言われるけどね
会いたがっているのは
君の方
そう
本当はあの人の方が
会いたがって
夢の中で私に会いに来てくれたなら
よかったのに
あんなに幸せな瞬間は
感じたことがない
あの感覚を忘れるのが
惜しい
次の日ずっと
陽だまりで溶けていく
雪だるまを見ているみたいに
あの瞬間が頭の中から消えていくのを
ただ眺めていた
現実に起こらないことなんだから
消えていくものなのさ
ね、どうして
私たちの現実は
夢みたいじゃないのかな
どうして私たちが願ったことは
こんなにも叶わないの?
いつかは叶うさ
それが君の望んだ形と
少し違ったとしても
夢は君の中にあるものだから
やっぱり君の現実にも
少しずつ出ていくものさ
あの人と両想いになれる?
それは知らない
けど、君が感じた幸福感は
確かに存在するんだから
それは君の世界の中の一つであって
いつかまたどこかで
出会うものさ
少し望んだ形と違ってもね
そうなんだね
思いつきで言っている
でも、そんな気がしてきたよ
ありがとう
ねえ、あなたは何か夢を見る?
あまり見ない
ああ、でも
この前変わった夢を見たよ
僕は雨の日に
古い雑貨屋さんに入っていった
そこには
黒いゴスロリ服を着た
女の子の店主がいて
僕に本を渡してくれた
その本は開くと
とても懐かしい気がした
するとページが輝いて
鏡みたいに映像を映す
そこには君が
彼と一緒に
井戸の周りをまわって
笑っていた
手を伸ばそうとした時
目が覚めた
不思議な夢だね
その店主の女の子にも
どこかで会った気がする
夢は懐かしさを
煮詰めて結晶化したような世界だと
いつも思う
それは時にはおかしな形の
宝石や岩石が含まれるけど
全て何か懐かしい味に包まれている
今度、ゴスロリ服着て
一緒に寝てあげようか
ご冗談を
明日も学校で
早いんだから
もう寝よう
ねえ
ん?
あなたは私のことが好きなの?
幼馴染として
友人としてはね
だから、安心して
眠っていいよ
そう、よかった
好きな人が出来たら
教えてね
こうやって
一緒に眠るのは止めるから
私はずっと応援しているから
ありがとう
僕も君の恋を応援しているよ
頭を撫でて
こう?
そう
安心する
ずっと、小さい頃から
一緒だったから
こうやって自分が
安心して一緒に眠れる人が
いるのは本当に幸せだと思う
これが私にとっての
幸せな夢なのかもしれない
そうかもね
僕にとっても君は
失った幸せな自分の幼年時代を
想い出させてくれる
夢なんだ
なあに?
なんでもない
おやすみなさい
良い夢を
うん
良い夢を
(終)
※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。
※過去の「スナップショット」置き場
今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。
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