連続体力学に基づいた物理計算の話 -6-
物理学では「質点」と「剛体」と「連続体」という3種類の物体の扱い方が存在します。
特に、連続体は物体の質量、運動(並進と回転)、そして形状変化(変形)を考慮します。質点や剛体はより扱い方を簡略化した存在と言えます。
こうした物体の変形を扱う学問として「連続体力学」があります。連続体力学は固体だけでなく、流体の分野にも適用可能な古典的学問でもあります。
前回は変形の記述において必要な、物質点の状態量「変位・速度・加速度」の扱い方を見てみました。また、変形問題における「力」と「状態」のそれぞれに関する規則にも言及しました。
今回は本格的に変形の記述(手順)について深掘りします。重要な指標として「変形勾配テンソル」がありますが、2階テンソルなので行列表現も可能です。その背景情報を主に見ていきます。
変形勾配テンソルの意味
連続体の変形問題は、ある2点の運動を取り出して、相対的な位置関係の変化を考える必要があります。すなわち、基準配置から現在配置にかけて、両者の2箇所の物質点(位置)の差を比較することを意味します。
物質点X近傍の微分形式(ベクトル)は、連続体の運動を介して物質点x近傍の微分形式(ベクトル)に変換されることを表します。この変換作用素がX近傍の変形を直接反映しているのです。
ここで書いている「微分形式」とは、各配置の2箇所の物質点(位置)の差分を意味します(微小量である前提を設けています)。
これらを基底で表現すると、変換作用素は運動の物質座標Xによる偏導関数という形で「変形勾配テンソル」と呼ばれる2階テンソルとなります。
これは、基準配置を参照する微分形式(ベクトル)を現在配置を参照する微分形式(ベクトル)に線形変換することを意味します。
変形勾配テンソルは2階テンソルなので、行列表現が可能です。変形勾配テンソルの行列式は「ヤコビアン」と呼ばれており、変形前後(基準配置から現在配置の時間的区間)の体積変化の比率を表します。
変形勾配テンソルの極分解
変形勾配テンソルの理解を深めるために、変形が存在しない場合(剛体運動)を考えます。物体の剛体運動は基本的に「並進」と「回転」で成立します。
物質座標Xの変換作用素として回転テンソルRを用います。基準配置を参照する微分形式(ベクトル)を現在配置を参照する微分形式(ベクトル)に変換可能な直交テンソルです。
連続体の変形は回転テンソルRに加えて、物体を引き延ばすような作用を加えれば十分です。引き延ばすタイミングは次の2通りが考えられます。
基準配置における微分形式(ベクトル)を引き延ばしてから回転する。
微分形式(ベクトル)を回転させてから現在配置において引き延ばす。
ここから、変形勾配テンソルを2種類のストレッチテンソル(UとV)の一方と回転テンソルの積として表現できます。厳密には、基準配置を参照する物質ストレッチテンソルUと、現在配置を参照する空間ストレッチテンソルVという違いがあります。
これまでは変形過程を基準配置と現在配置の2段階で書いてきましたが、逐次的な変形勾配テンソルの合成(連鎖則)として表現することも可能です。
おわりに
今回は変形勾配テンソル(2階テンソル)を中心に、変形問題における理論的な扱い方を示してきました。この変形勾配テンソルを軸にして、様々な理論展開が成されていきます。
次回は変形問題で重要な指標と言える「ひずみ」をテンソルを用いて表現していきます。実際に現場でも出てくる専門用語がありそうなので、自分自身も知識になり得る話題だと思います。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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