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【#37】材料力学の強化書 〜固有値問題について〜
今回のトップ画像は中国は北京にある天壇公園です。北京城の南東に位置しており、明や清となどの皇帝が五穀豊穣を祈願し、天帝に報告した場所とされています。
当時の「天」は中国人の中では昔からの至上の存在とされていました。日壇、月壇、地壇など北京にある複数の壇(皇帝の祈祷場という意味です)の中で、天壇は最も重要視されてきた場所だそうです。
現在は中国の最大最古の壇廊建築物として、世界遺産に登録されています。いつか行ってみたいですね。
さて、材料力学の話に戻りましょう。
前回は、3次元の応力状態を2次元の応力状態に簡略化する「平面応力」と「平面ひずみ」の考え方について説明しました。
今回は再び数学の復習です。応力成分を書き出す便利な手法として、行列と呼ばれる方法があります。行列は高校数学で習う範囲ですが、これを物理で利用することについては、あまり聞いたことがないかもしれません。
今回は行列の発展学習として、行列の固有値問題を説明します。この手法は材料力学に限らずよく使われるものですので、ここで理解しておいたら、何かと便利かもしれません。
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3次元の応力状態の行列表現
一般的に、3次元の応力状態では3つの垂直応力と6つのせん断応力の計9成分により記述されます。
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なお、せん断応力の共役性から、下記の式が成り立つので、実際は6つの異なる成分で構成されます。
$${\tau_{xy}=\tau_{yx}, \tau_{yz}=\tau_{zy}, \tau_{zx}=\tau_{xz}}$$
既に説明した通り、主応力状態では上記の行列の対角成分(垂直応力)は主応力となり、非対角成分(せん断応力)はゼロになります。これは後に説明する対角化の操作により求められます。
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固有値問題
任意の正方行列(A)について、下記を満たすような定数(λ)とベクトル(x)を求めます。
$${Ax=\lambda{x}}$$
応力の行列表現は上記にあるように正方行列です(2次元の場合も同じです)。上記が成立するときの固有値が主応力に相当し、固有ベクトル(x)は主応力方向(主軸)に相当します。
固有値と固有ベクトルを求める際ですが、まずは単位ベクトルEを用いて上記の式を変形します。
$${(A-\lambda{E})x=0}$$
ここで、右辺は零ベクトルです。上記の式が成立するには、左辺の括弧内を行列式にした時に、計算結果がゼロになるようにします。
$${|A-\lambda{E}|=0}$$
この形を固有方程式と呼びます。応力状態を表す行列は最大で3行3列なので、行列式を求めるにはサラスの方法が使えます。
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この方法自体は公式みたいなものなので、覚えることになりますが、物理で登場する固有値問題は大抵これで解決できます。
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2次元の固有値問題 〜実計算〜
実際に2行2列の行列で計算をしてみました。2次元の応力状態と対応させると、下記の通りになります。
$${\sigma_x=6, \sigma_y=2, \tau_{xy}=-4}$$
固有値(主応力)と固有ベクトル(主応力方向)を求めて、そこから変換行列を作り、対角化させるところまで進めます。対角化すると、対角成分に主応力が並ぶことが分かります。
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行列式の計算は先ほどのサラスの方法を用いており、対角成分の積から非対角成分の積を引いています。逆行列については2行2列は公式から求めることができるので、そちらを参照します。
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おわりに
今回は主応力を求める際の登場する「固有値問題」について解説しました。固有値問題は様々な工学分野で利用されるので、覚えておいて損は無いかと思います。
今回で主応力に関する話は終わりにします。次回からは内部仕事(変形におけるエネルギー)について説明することにします。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。実際は非定期ですが、毎日更新する気持ちで取り組んでいます。あなたの人生の新たな1ページに添えるように頑張ります。何卒よろしくお願いいたします。
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