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変形問題をテンソルの概念を含めて解説してみた

構造物とは、道路やダムなど「複数の材料や部材などから構成され、基礎などにより重量を支えられた構造で造作されたもの」を指します。

構造物は様々な外力を経て形状変化(変形)を引き起こし、最終的に破壊に至ります。これらを評価する上で重要な物理量として「応力」があります。構造物に掛かる力の話であることから「内力」に分類される力です。

前回は応力の基本的な扱い方について、実用的側面も含めて解説しました。

今回はさらに別の視点として「テンソル」の考え方を解説します。

物理量は座標軸(方向)に依存しないもの(スカラー量)と依存性のあるもの(ベクトル量)に大別されます。ここから、ベクトルが作用する面の在り方を考慮する場合は、追加で1段階(以上)の変換が生じます。

これがテンソルの基本的な考え方になります。つまり、大きさに加えてn個の方向性(情報)を持つとき「n階のテンソル」と言います。テンソルは物理量の本質的な特性を知るための手段です。


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今回は数年前に投稿した「降伏条件と降伏曲面について」という記事が現在も多く読まれていることを受けて、現在のスタイルに合わせて再編集(アップデート)しました。



テンソルの物理的意味

例えば、質量や温度は基本的に大きさだけでその内容が定まります。つまり、座標軸(方向性)に依らない物理量と言えます。このような物理量は「スカラー量」と呼ばれており、0階のテンソルに分類されます。

一方で、力や変位は一般的に大きさだけでなく座標軸(方向性)に依ります。このような物理量は「ベクトル量」と呼ばれており、1階のテンソルに分類されます。

物理で度々登場する物理量に「速さ」「速度」があります。これらは概念上は同じですが、前者は座標軸(方向性)を考慮しないもの、後者は考慮するものという違いがあります。

画像出典:https://sprint-condition.info/category33/entry334.html

続いて、今回の主題である2階のテンソルの話になります。変形問題で登場する「応力」は2階のテンソルに該当します。

前回も示した通り、応力は物体内部の断面に作用する力です。すなわち、断面に作用する内力のベクトルに対して、断面の方向性(断面の法線方向や接線方向)で応力の様相も変化します。

つまり、ベクトルに対して、追加で1段階分のベクトル(変換)を挟むことになります。力(内力)に断面の方向性を挟むことが「応力」であり、2階のテンソルの考え方です。

画像出典:https://navi.hardlock.co.jp/column/組合せ応力下の疲労寿命とその予測/

力(内力)はベクトル(1階のテンソル)になりますので、ここに断面の方向性(法線方向と接線方向の計3方向)を考慮するので、応力は計9成分で構成されます。これは3x3の正方行列(表現)とも言えます。

このことから、2階のテンソルは行列と言い換えることができます。物理では3次元を基本としますので、行列表現も3行3列が一般的です。

テンソルを用いた線形変換

テンソルに関する規則(ルール)の詳細はここでは割愛しますが、実用的な規則として「線形変換」があります。

例えば、任意の1階のテンソル(ベクトル)を別の1階のテンソル(ベクトル)に変換するには、2階テンソルを中継する必要があります。

$${\bm{v}=\bm{A}\bm{u}}$$

また、2階のテンソルは上記(2種類)のベクトルから1種類のスカラーを作る機能も有します。例えば、下記の線形変換を仮定します。

$${\bm{w}=\bm{A}\bm{v}}$$

こちらをもう一方の1階のテンソル(ベクトル)との内積を計算すると、新たなスカラー量が作られます。これも線形変換を前提とした導出です。

$${z=F(\bm{u},\bm{v})=\bm{u}\cdot\bm{w}=\bm{u}\cdot\bm{A}\bm{v}}$$

2階のテンソルを理解するには、線形変換の機能を知り、物理的な意味は入出力されるベクトルを踏まえて考えるのが最良なのです。

画像出典:https://contents-open.hatenablog.com/entry/2022/04/14/224440

線形変換を応力の話に転化します。まず、任意の断面に対して表面力(ベクトル)と断面の単位法線ベクトルを規定します。すると、コーシー応力テンソル(2階のテンソル)による線形変換を意味する公式が導かれます。

$${\bm{t}=\bm{\sigma}\bm{n}}$$

なお、右辺に示したコーシー応力テンソルは対称性を有すること(対称行列を形成すること)が知られています。これは断面の接線方向の応力成分(せん断応力)が、対称位置に相当する2面間では同値になることを意味します。

おわりに

まとめると、テンソルは1階のテンソルに相当するベクトルに対して追加で線形変換を施したものと言えます。

応力に関して言えば、力(内力)のベクトルとベクトルが作用する断面の配置を噛ませることで、2階のテンソル(正方行列)を形作ります。

今回は変形問題を数学的に捉えるために、テンソルの概念と応力の話を書きました。テンソルの考え方は大抵は大学院辺りから登場するため、難しい内容ではあります。

これらを市民権を得るように簡易な話にしたい。そのための活動を自分は続けています。その辺は「理系方面のマガジン」で触れていますので、今回を機に見てもらえたら嬉しいです!



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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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