「ドクロ」 ジョン・クラッセン
凛々しい女の子と体を恐れるドクロ、それと頭を欲しがるガイコツの物語。
原書と邦訳、両方を同時に手に入れた。
オティラはとうとう逃げた。
Otilla finally ran away.
1ページ目、オティラはとうとう逃げ出す。それはみんなが寝静まった真夜中のこと。
だれ?何から?どうして?
”とうとう”と言うほどの長い間どこにいた?
前置きは一切ない。
雪が降り、積もっている。足跡が、壊れた柵を越えて木々の間へ続く。
タイトルページ。灰青の雪が降りしきる暗い森の中、前へ進むオティラの見開いた目の白さがくっきりと際立つ。向かう先には暗闇が広がり、瞳は背後を気にしている。
映画のような始まり。
走り続けるオティラを描写する、短く切られたセンテンスの、その容赦のなさが原文の雰囲気そのままに、物語にとてもよく似合っている。
程なくしてオティラはもう走れなくなる。雪の中に倒れ伏したオティラの表情はどこまでも平板で、なのになぜだろう、瞳が揺れて見える。顔の前に置かれた小さな手には手袋もない。
オティラは雪と闇と静かさの中に横たわり、泣いた。
Otilla lay in the snow and the dark and the quiet and she cried.
それにしても、原文にはない読点、ここに打つなんて…。
ページをめくると、オティラはすでに泣き止んでいる。
そんなふうに泣いて、泣き止む人に、本の中でも出会ったことがない、と思う。
オティラは泣き終わり、立ち上がって前に進む。すると開けた場所に出る。遠くには大きくて古い屋敷が見える。
ずっと暗かった視界に光が差している。いつの間にか、朝日だ。
赤み寄りの暖かい橙色。見返しの紙が同じ色だということに気付く。そういえば、全体的に暗いカバー絵にも同じ色が差している。
カバーをめくると表紙は灰青、黒い箔押しでドクロ。トータルで、本としての良さが極まっている。
たどり着いた屋敷で、オティラはドクロに出会い、頭のないガイコツと対峙することになる。
ドクロとのやりとりは微笑ましく、ガイコツとの対決は決意に満ちていて本当にかっこいい。
そして、やがてオティラが「わかった」と言うまでの物語。
"All right." said Otilla.
ジョン・クラッセンの絵はフォルムがよくて、抑えた色味もよくて、余白や背景の切り取り方がいい。
彼の絵本は「ドクロ」のほかに、「どこいったん」「ちがうねん」「みつけてん」の3冊の、原書を持っている。
邦訳の関西弁がおもしろすぎて元の英文が気になり、原書を買ってしまった次第。何で関西弁にしたんだろう。興味深い。
話の内容も絵も、キュートでユーモラスでちょっとダーク。何しろ素敵が過ぎる。
これは「どこいったん」。
「ちがうねん」も「みつけてん」も、YouTubeに朗読動画があります。