my select50 vol.25 「mashiko-ceramics town」
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my select50の折り返し地点
第25回目は「益子」です。
(※情報は2023年6月時点のものです。)
益子といえば、「益子焼」。ご存じの方も多いと思いますが、「益子町」は、関東屈指の陶器の町です。栃木県の南東部の芳賀群にある人口2万人の小さな町。
都内からだと車で1時間半から2時間くらいの場所にあります。
私のインスタグラムなどを見られている方は、異常な「益子愛」が伝わってくるかと思います笑
家族は、「あなたの前世は、益子の土」と言い、呆れています。
前世が益子の器を焼くための粘土、、、最高じゃないですか。
私が益子に通うのは、私が陶磁器嵬集を趣味にしているというのが大きいですが、それ以上に、町に文化的な香りが漂っているとともに、多様性というか、開かれている雰囲気がある点です。
ここでは、益子の町や、行きはじめたきっかけ、買った器、オススメのショップなどを紹介していきます。
私が初めていったのが確か2018 年の年末。5年くらい前でしょうか。それから、年に4回は行っていますので、もう20回ちかく行っている計算ですね。
最初に行った瞬間から直感で「住める・住みたい」と思いました。
益子にハマったのは、陶磁器に興味を持ち始めた時期からですが、実は、三越伊勢丹でバイヤーをやっている時代から「益子」というキーワードは気になってはいました。
というのも、1998年に突如、「starnet」というライフスタイル型の衣・食・住を提案するセレクトショップが益子に誕生しました。
今ではどこでもありますが、当時は、エコロジカルな生活全般を提案するショップが都内にもあるかないかの時代。その最先端のショップが益子にできたということでファッション業界でも話題になったからです。
その時は、20代前半で「なぜに益子?」という感じで、あまり気にもとめていませんでしたが。後半のオススメショップのところで紹介します。
益子(益子焼)の歴史は、全国的に有名な信楽や常滑、瀬戸、備前、有田、唐津などよりは新しく、1852 年に始まったとされています。
江戸時代末期なので窯場としての歴史は浅い。
そして、明治に入り、益子焼を庇護していた藩がなくなった影響や、陶器の需要が落ちるなかでも、実用品を中心に続いてきました。
その益子に転機が訪れるのは昭和の初め。
陶芸家で民藝運動も推進する『濱田庄司(後の人間国宝)」が益子に居を構え、作陶活動を始めてからです。国内のみならず、世界的にも有名で、影響力や発信力もあった濱田氏が窯を構えたのは大きかったと考えられます。
濱田氏は「益子焼の中興の祖」などと言われていますが、所縁がない益子という土地に目を付けた濱田氏の慧眼も素晴らしいと思います。
陶器の町という以外になにか惹きつけられるものがあったのだと感じます。
益子は、昭和の濱田庄司の活動から、平成の starnet の出現を経て、現在は450人近くの陶芸作家が拠点を持つ関東屈指のクリエイター(陶芸作家)の町になっています。
益子焼は、一般的には柿釉と言われる赤茶色の「釉薬※1」を使った物や、濱田氏が得意とした釉薬の流し掛け、飴釉(飴色の釉薬)を使った民藝調の器が知られていますが、それが全てではなく、陶芸作家がそれぞれ益子という陶芸の町で、型にはまらず自由に活動しています。
それが、今の益子焼の良さだと思っています。
※1釉薬:釉薬(ゆうやく、うわぐすり)は、陶磁器の表面をおおっているガラス質の部分。陶磁器を制作する際、粘土などで形を作った器の表面に液状の釉薬を塗って焼成すると、高温で固まってガラス質に変わる。
例えば、備前焼だと焼き締められた花器、有田焼だと白磁に綺麗な絵付けされた食器など思い浮かびますが、それがあまりないことが逆に若い創作意欲溢れるクリエイタ一達を惹きつけているのかなと。
先ほど、450人と数字をあげましたが、その7割~8割くらいは外部から来た人だそうです。多様性と開放性があって良いですね。
starnet の存在で益子は認識していましたが、益子に行こうと思った直接的なきっかけはこの小さな壺/花器です。
陶磁器に興味を持ち始めたのが6年くらい前ですが、そんな折に、親父が「お前、美術品好きだろ。東京プリンスで、でかい骨董美術展やってるぞ。」と言う。
東京プリンスホテルは、芝公園の近くにあり、昔から好きなので、ランチがてら行ってみようと出かけると、かなりの数の骨董商が並んでいるじゃないですか。その中で、1件、古美術じゃないけど、民藝っぽい美術商に目がとまる。濱田庄司と河井寛次郎の陶器が並んでいて、それは当時初心者の私にも分かりました。もちろん、どれも非常に高い。
いろいろ見ていると、一見は濱田氏ぽいんだけど、ちょっと違った、静やかな作風の壺というか花器がある。直感で良いなと思い聞いてみると「濱田庄司さんの弟子の『島岡達三』さんです。島岡さんも人間国宝ですよ。」と返ってくる。
「なるほど、お弟子さんか。」と合点がいきつつも、これもやはり安くはない。洋服なら直感で買って失敗することはないけど、陶芸や古美術の世界はまだ日が浅いので、一旦保留にしてその日は帰りました笑
一回帰ったものの、気になってしょうがないので、次の日電話してみると、「気になっているのが分かったので、実は店頭から引っ込めてあります。値段も勉強させていただきます。」と言うじゃないですか笑
美術商や骨董商は本当に上手です。結局、2日連続で東京プリンスに出かけるはめになってしまいました。
帰って調べると濱田氏の弟子として益子で作陶していたとある。また、濱田氏とともに、益子焼の発展や後進の育成にも貢献ともあるので、いよいよ「益子」とはなんなんだと思いましたね。
陶磁器が好きになっていたので、いずれ益子には行っていたと思いますが、きっかけは、島岡達三さんです。
ここから、自分が購入した益子の陶芸作家のお気に入りを紹介します。
こちらは、遊心窯で作陶する「松崎健」氏の作品です。
今の益子を代表する陶芸作家の一人です。
お店で初めて見たときに、その作品の迫力とデザインが凄いなと思い、店主に聞くと、「松崎健さんと言います。島岡達三さんのお弟子さんです。」と言う。
ここでまた島岡達三さんの名前が出ました。
私が勝手に益子に運命を感じた瞬間です笑
ちなみに、織部焼はその作品数に比べて良品が少ないと個人的に思っています。
緑色の緑釉部分に、下地が露出する部分と、絵付けが入る織部。陶器の種類だと派手というか、デザイン性が強いのが特徴です。デザイン性が強いうえに、それをバランス良くコントロールできる陶芸作家が少ないのだと考えています。
松崎氏に会いたいと思い、連絡してみると、「ちょうど今は相手できるから良いよ。」と快諾をもらえるじゃないですか。
1時間ほどお邪魔し、色々と教えていただきました。
上記にも書いた通常では考えられない火との闘いについて「狂ってますね!」というと、静かで自信に満ちた顔で「でしょ。」と
最高です。
松崎氏は、ものすごくお洒落で白髪のカッコ良い人です。
このカッコ良さだけでも、ファンがいるだろなぁと思ったりしました笑
伝統的な釉薬を使って、食器を中心に作陶している岡本芳久氏のお皿です。
益子焼らしい釉薬ですよね。普段使いにとても良い感じです。
こちらも織部のお皿です。馬場氏は織部や赤絵の器などを中心に作陶されています。
やや地厚で特徴的な表面をしています。艶やかながら渋いお皿です。
この楊枝入れと香炉は松原直之氏の作です。白釉を下地に「鉄砂絵」や「赤絵」を描いた器を主に製作しています。
たっぷり塗った白釉が、「梅花皮(かいらぎ)※2」ぽく、ぷくぷくっと固まっている景色と赤絵の鮮やかさのバランスが良いと思っています。
※2梅花皮:本来は、「東南アジア原産の鮫類の皮」を指したものの当て字。器に塗った釉薬が焼成不十分のために溶けきらず、さめはだ状に縮れた状態をさす。本来であれば、不完金な状態なのだが、日本人特有の美意識の中で、その景色が良いとされている。
これは刷毛目の鉢です。南窓窯で作陶している「石川雅一」氏の作品。粉引や刷毛目などとても綺麗で繊細な器を作陶されています。
モダンなようでいて、どこか季朝の古風な雰囲気と気品も併せ持つ、器に主張がありすぎない、使いやすさが特徴でしょうか。
石川氏の南窓窯にもお邪魔したことがあります。移築した古民家に、石川氏が集めた民芸品や布地、アフリカ各地の調度品などが部屋いっぱいにあり、また、それぞれが調和し合う、素晴らしい空間でした。
野暮ったい言い方になってしまいますが、芸術家のご自宅だなと思いました(名前に貼り付けてあるページで様子が分かります)。
最後にオススメのショップを紹介します。
混雑が苦手じゃない方は、春のGWと秋の11月に開催される「益子陶器市」に行くと楽しめます。
なんとこのイベント、春と秋のそれぞれで約 20万人が来場する一大イベントなんです。
ついでに直近の 2023年春の陶器市は「36万人!」来たそうです笑。
決して便の良いところではない益子の位置から考えると、よくもこれだけ人が来るな、と思いますよね。
益子の多様性・開放性があってこそ、人が惹きつけられ、結果としてこの動員力なんだと実感します。
ちなみに、慣れてくると、陶器市は避けて、静かにお気に入りのお店だけ回るというのも良いと思います。
私が益子で一番器を買っているお店「佳乃や」さんです。
このお店は、店主が厳選した陶芸作家の器を置くギャラリー的なお店
趣味とセンスがとにかく良く、その選品眼は勉強になります。
メインから少し離れているのも、器をゆっくり見れると思うとありがたい。
松崎氏の作品を教えてもらったのもこのお店です。
この佳乃やさん、お庭がまた良いんです。
行き届いたお庭。これも店主のセンスですよね。
このお庭を見ながらお茶飲んだら美味しいでしょうね。我が家の庭も見習いたいです笑
こちらが冒頭で触れた 「starnet 」です。1998 年に故馬場活史氏が設立したオーガニックなカフェ、手仕事によりデザインされた服や生地、使い心地のいい陶器、シンプルでモダンなギャラリーなどがあるセレクトショップです。
今でこそこういうお店は幾つかありますが、当時はありませんでした。
馬場氏は、パリや東京で人気を博した「TOKIO KUMAGAI」で、故熊谷氏のパートナーとしてブランドのプロデュースを手掛けていたファッション業界では有名な方
ファッションの世界で、ハイエンドで最先端のビジネスを展開していたのですが、グローバルな経済に違和感を感じ、37歳の時に益子の地にやってきたそうです。
私の知り合いの器屋さんや、ファッション業界、インテリア業界の方で「益子の今の環境は、馬場さんの力によるところが大きい」と言う人が一定数います。残念ながらお亡くなりになりましたが、益子の発展の恩人なのではと感じています。
25年も昔にこういう素敵なお店が益子に出来たということを知るだけでも行ってみる価値があります。
今、人気のある「pejite mashiko」
古い古家具や、シンプルでこだわりのある服や雑貨、益子を中心とした作家の器などを取り揃えたセレクトショップです。また、最近はオリジナルの器も充実しています。
この倉庫をリフォームした建物と、アイビーに囲まれた壁が素敵な空間を生み出していて、見に来るだけでも価値はあります。
この空間がいわゆる「映える」スポットなので、若い人達がよく写真を撮っている名所でもあります笑
また文章が長くなってしまいました、、、
本当はもっと多くの陶芸作家さんやお店を紹介したいのですが、まずはここまでにします。
私が大好きな益子の魅力が伝わりましたでしょうか。
有名人だったら益子観光大使になりたいと思うくらい大好きです笑
今まで長々と益子の町や陶芸作家、オススメのお店などの魅力をつづってきましたが、本当に好きな理由が何かと聞かれたら言葉にできないのが本音です。「フィーリング」に尽きるというか。感性がビビッときたとしか言えません。
初めて行った時から、町の「磁場」に引き寄せられる感覚がありました。
僭越ながら、濱田氏も馬場氏も益子の持つ磁場を感じた部分はあったのではないかと思っています。
行かれたことがない方は是非一度訪れてみてください。
今度、益子案内ツアーでも企画してみようかな。
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※2022年の「秋の益子陶器市」のpejite mashiko
私もFIAT500で映える写真を撮りました笑
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