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21世紀の生存報告

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2024年10月の記事一覧

【読書】『源氏物語の時代』 山本淳子 著

大河ドラマの良いところは、登場人物の死がネタバレにならないことだと思う。1000年も生きているひとはいないので、当たり前のように平安時代の歴史上の人物は死んでいるし、ドラマの中でもやっぱり死んでいく。

すこし前の、『光る君へ』では、一条天皇の崩御が描かれていた。

塩野瑛久さん演じる一条天皇は、佇まいや所作が美しくて、とてもよかった。抑制された演技が、一条天皇の抑えきれない気持ちの揺れうごくさま

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【読書】「さかさま英雄伝」寺山修司

「誰か故郷を想はざる」(1968.10.20)によると、寺山修司は、1935年12月10日生まれらしい。俳句も短歌も演劇も評論も、名のある作品や仕事を残している。

 例えば、上のは短歌の有名なやつ。短歌でもそうだったけれど、虚構性が指摘されていて、お母さんが働いてる時期に、亡き母について歌ったりしてる。
 私は、寺山修司の文章は半信半疑で読むべきじゃないかなと思う。ちなみに半信半疑で読んでいても

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祖母と珍味

祖母の夢を見た。

氷下魚をちぎって渡すと、祖母が皺くちゃの顔で笑う。小さな、公営住宅の玄関だった。目が覚めるまで、祖母が死んだことは忘れていた。

祖母は公営住宅に住んだことはない。
なぜ玄関なんだろうか。
でも、元気そうだった。

【小説】「父を笑わせる」 その6(最終話)

【小説】「父を笑わせる」 その6(最終話)

 北海道から帰ってきて、お土産のとうきびチョコを、どじょうすくいの先生に渡した日だった。どんど焼きの時にどじょうすくいをやるので、手伝ってくれないかと言われた。
 正直、気が進まない。
 「すみません。僕はまだ下手ですし」
 「もちろん上手とも言えないけど、そこが良いと思うのよ。実は、フジワラさんも出てくださるの。どうかしら?」
 「フジワラさん、僕はお会いしたことがなくて」
 なるべく平坦に、感

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【小説】「父を笑わせる」その5

【小説】「父を笑わせる」その5

 十二月。一つ、父を悲しませる不幸があった。

 北海道に住む叔父が亡くなった。

 叔父は、母の弟で、ダンプカーの運転手だった。
 冬は名古屋や三重のほうで、夏は北海道で砂利や土砂を運ぶ仕事をしていたのだけど、気に入った町を見つけてからは、北海道にある小さな町でレストランをしていた。父とは、同じ大学の同級生だ。
 「おじさん、亡くなったらしい」と父から聞いたとき、僕が真っ先に思ったのは、お年玉の

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誰かに気づかないうちに祝福されてるみたいに

 今日はお誕生日で、二日酔いだった。
 頭が、右の目の奥のもっと奥のところがガンガンする。頭痛に、お誕生日とか関係ないよね。

 朝ごはんを食べながら、子どもがつけた『葬送のフリーレン』を観る。
 奇跡的に、お誕生日の話だった。
 たしかに誰かの祝福に気づかないことはある。
 雪景色も静かで、二日酔いの誕生日に観るにはぴったりのお話だった。

 買い物を終えて、家で子どもたちにしらすチャーハンを作

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【小説】「父を笑わせる」その4

【小説】「父を笑わせる」その4

 ウツミが教えてくれたどじょうすくい教室のホームページには、素敵な笑顔で、写真に映るひとたちが並んでいた。全員、鼻の穴の部分を覆うように、黒いなにかをつけている。

 なんとなく、見ていて安心する。

 たぶん、こんなマヌケな恰好をして誰かに悪意を持つひとはいないんじゃないだろうか。すくなくとも悪意をもたれても、許してしまう気がする。ウツミに都合のいい曜日や時間を聞いたあと、教室に電話をかけてみる

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【小説】「父を笑わせる」その3

【小説】「父を笑わせる」その3

 次の日の朝も、おむつ公園でウツミを待つことにした。
 提案したいことがあるのだ。

 ウツミは、僕を見つけるとだるそうに手を振り、公園を通り過ぎようとした。
 「おはよう、ウツミ」
 あわてて追いかける。
 「おはよう、アサクラ」
 「あれから、ちょっと考えてみたんだ」
 「何を?」
 「やっぱ『自然に任せる』っていうのはよくないんじゃないかな」
 ウツミは鼻でため息をついて、眉を寄せた。
 「

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薬としてのデイリーヤマザキ「豆いっぱいよもぎ大福」

薬としてのデイリーヤマザキ「豆いっぱいよもぎ大福」

 「やらない」ことは多い。
一昨日の夢もそうで、殺し屋教室に向かうために急いでいたところで、自分の格好が気になってしまい、引き返すというものであった。

 私はレオタード姿であった。

 殺し屋教室がどんな場所なのかわからないが、光沢のある黄色いタイツの腰に青いスカーフを巻いた格好で行くのはどうなのか。襟もフレディマーキュリーがステージで着てそうなタンクトップよりだいぶ深めのU字で、なんならTシャ

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【小説】『父を笑わせる』その2

【小説】『父を笑わせる』その2

 お店に着くと、店長が海を作っていた。
 この音は、波だろうか。砂浜の浅瀬の部分で水が揺れる音がする。
 「昨日、録音してきたの。千葉の海で」
 小さな箱庭に砂を敷き詰めながら、店長が言った。
 「なんか、海にいる気がします」
 その日は、店長と二人でそのまま波の音を聴きながら、仕込みをした。
 今日のお店は、いつも通り忙しかった。
 店長によると、忙しさには段階があり、
 「忙しい」と、
 「ク

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