![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/171598911/rectangle_large_type_2_11aa1c7304992f1816e6f9761632c958.png?width=1200)
まさに空想科学戦記冒険映画(長い):『海底軍艦』4K版(1963)
以前にこんな記事を書いた。
最終的には『かの戦争で自分たちが出来なかったことを、ムウ帝国撃滅という任務で果たす』というカタルシスに繋がるのですが、初見時はそこに至るまでの『溜め』な要素がもっとあってもいいかな、という印象でした。
再見するとまた違って見えるでしょうか? 気になります。
その通りだった。前回の『地球防衛軍』もそうだが、やはり銀幕で観ると印象が変わる。ビデオでの初見時は「轟天絡み◯、それ以外は普通」くらいにしか思えなかったが、今回の上映は特撮はもちろんドラマパートもしっかり楽しめた。これが映画館の力というやつか。無論、映画館で観てガッカリした場合はその感情も増幅されてしまうわけだが……
それはさておき海底軍艦である。物語は「ムウ帝国」と「海底軍艦」双方の謎が解き明かされていく作りだが、その過程は小気味良く描かれており、話の筋を知ってるはずなのに何かワクワクされられてしまった。この辺は本多監督と関沢脚本の腕である。そこに神宮寺大佐という、終戦を知らずに生き、皇国の勝利を信じて海底軍艦こと「轟天号」を創り上げた者が現れる。
反乱を起こしてでも轟天建造に全てを掛けていた彼からすれば「世界は変わったんだ」と言われても、では刀折れ矢尽きるまで戦い抜かんとした日本はどこへ行ったのだ! としか思えなかっただろう。しかし実娘・真琴から「お父様はムウ帝国と変わらない」と言われ、追い打ちをかけるように彼女を慕う旗中から「錆びついた鎧を着ている」とまで称された時に、神宮寺は何を思ったのか。
だが神宮寺は旗中の言うような気狂いではない。そうまで言った旗中に対してまで「……娘を頼む」と言えるような、良く出来た人間なのだ。神宮寺は立派な帝国海軍軍人である。そして誰よりも信念の強い男である。しかしその信念が、今の日本そして世界とはあまりにもかけ離れたものになってしまった。彼もまた、戦争によって運命を狂わされた側ではあるまいか。
そんな神宮寺がついにムウ帝国撃滅のため立ち上がった。この時の台詞は
「……では、出かけますかな」
だった。どう思い至っての一言だったのか。錆びついた鎧を脱いでみたら清々した、とも語っている。つまりこの時点で彼は「皇国復興のため」ではなく「一軍人として」ムウ帝国と対峙しようと考えたのだろう。
ムウ帝国は文化こそ古代文明のそれと同等だが、科学・技術力に関しては地上人類よりも優れていた。彼らの潜水艇や世界各地における破壊活動からもそれは十分見て取れる。にもかかわらず、ムウ帝国は海底軍艦ただ一隻を怖れていた。ムウ帝国の猊下は設計図の下図だけを見て「今に突き止めてみせる」と呟く。つまり「我ら唯一の脅威があるとすれば、これだ」と判断したのだ。だからこそムウ帝国はスパイとしてカメラマン・海野を送り込み、海底軍艦の本拠地を爆破してみせた。
ここで神宮寺は気が付いたのであろう。我々の力を怖れてそこまでするのなら、我々を脅威だと称するのであれば、その力をお見せしようと。我々が信じて続けてきた全てをムウ帝国に対して示してみせよう、と。
ちなみに脚本では「錆びついた鎧を脱いでみたら清々した」の後に「20年のもやもやをムウ帝国にぶつけてみるのもいいでしょう」という台詞もあった(本編ではカット)。だからこそ「出かける」のだ。あくまでも一軍人がやりたくてやった、と言いたいのである。
かくして轟天は最新鋭の潜水艦でも辿り着けなかった深海へと進撃し、ムウ帝国が崇めるマンダをものともせず、一気に心臓部へと殴り込みをかけていった。冷線砲で彼らの科学技術を全て無力化し、爆破。瞬く間にムウ帝国の野望は潰え、かつ滅亡してしまった。皇国の復興を信じてきた者たちが、愛国心ではなく一軍人として立ち上がり、何かを神格化しつつ世界征服を企む者たちを撃破する、てのは何とも示唆に富んでいるではないか。
さて、轟天号そのものに関してはこんな記事もある。
ここで触れているように、轟天号は「軍艦」といいつつ非常に特殊な艦船だ。いや、ドリル付いてて空飛ぶんだから当然だろう、という話ではない。これは空飛ぶ潜水艇なのである。
轟天の全長は設定だと150mで、軽巡洋艦・龍田とほぼ同じ(144m)。あの戦艦大和が263mなので、比較すると結構小さいように思えるかもしれない。しかし潜水艦として見た場合は非常に巨体だ。劇中でも触れられた伊号四百型は全長122m。戦後に米軍が接収した際はその大きさに驚いたという逸話もある。実際、戦時中に米軍が使用していたガトー級潜水艦は100mも無かったのだ。轟天は米軍が「大きい」と言った伊号よりもさらに大きい、それでいて飛行可能な潜水艦なのだ。
ちなみに昨今のジェット旅客機は大型のものでも全長70m台である。轟天はその2倍。やはり立派な巨大軍艦だ。
その発進シークエンスの描写は後の『マイティジャック』に受け継がれている。注水やハッチ開閉、水上への出現場面といったカットは、ほぼそのままといっていい。となると、MJ号のそれは「轟天もこんな風にしてみたかった」なのだろうか。