![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/59396555/rectangle_large_type_2_18966ae9a3ab81d7d2719638d512510c.png?width=1200)
吉本は漱石タイプ?
『夏目漱石を読む』吉本隆明 (ちくま文庫)
作品がポイント良く整理されてわかりやすい漱石論だ。研究者のというより文学者の評論でもなく純粋に読むという感じ。漱石入門として漱石全部読むのは面倒だけど手っ取り早く知りたい人はこの本がいいのでは。漱石が好む女性は『坊っちゃん』の清のようなタイプ(女中タイプ)でフェミニスト好みの『虞美人草』の藤尾や『三四郎』の美禰子ではない。吉本も『門』の夫婦関係が好きで、『それから』はあまり評価されていない。そこがちょっと違うけど、好みのタイプは人それぞれだから、むしろ漱石に近いと思う。
漱石の三角関係は西欧の小説のように姦通小説にはならない。それは「何が違うかというと、もしかしたら広い意味での同性愛に近いかたちで親近感を持っていることが三角関係小説の特徴です」と吉本は書くけど、それはすでに三角関係ではなく二項関係になっているからだと思う。異性の関係は弾かれてしまう。
「男女の関係については自然が人工的(家や政治に縛られる関係)がいいし、自然なら無意識な自然が一番いい」としながらも自然の関係にはなれないのは、それだけ家や政治(力関係)に縛られてしまうからなんだろうけど。自然に一緒になれるというのはまず漱石の作品の中にはないのだけれど、一緒になれるのだったらそもそも小説にはならない。一緒になれないからこそ読まれるのか。
パラノイアである漱石が書いた私小説『道草』をヒステリーだった漱石夫人が書いた『漱石の思い出』の並行読みは面白そうだ。(2017/04/25)