立花隆のさきがけとしての松本清張
『「松本清張」で読む昭和史』原武史 (NHK出版新書)
『100分de名著 松本清張スペシャル』のテキストを加筆訂正した新書(『日本の黒い霧』を加筆、終章「『平成史』は発掘されるか」は著者が清張が生きていたら書いていたであろう平成史を予想する)。あらためて松本清張は面白い。それに劣らず原武史も面白い。大正から昭和に変わるときも明治ブームとかあり、明治節が制定されたりした。皇室番組や維新ブームとか似ている。松本清張の遺作となった『神々の乱心』は天皇家の内幕をフィクションとして描いた作品だが、天皇家も普通の家庭問題を持っているというのが清張の主張なのかもしれない。
『日本の黒い霧』は昭和の未解決事件にGHQが絡んでいた陰謀説のようなノンフィクションだが、事件の全貌よりもその当時の構造、戦後日本が独立を回復してもGHQの支配下に置かれ、GHQの壁を超えて捜査できなかった治外法権の闇を描く。そうした清張をロマンチックすぎると批判したのが大岡昇平で清張を最初に評価したのが坂口安吾だった(清張が芥川賞を取ったときに選者だったのが安吾)。そういえば大岡昇平も清張に負けずと『事件』という推理小説を書いていた(これは面白い)。GHQのタブーに望んだ清張が天皇のタブーにも望んだ。(2019/11/01)
かなり以前に読んだので忘れていますが、「100分de名著 松本清張スペシャル」を見て興味を引かれて読んだのだと思う。それまで推理小説家としての松本清張しか知らなかったのですが、『昭和史発掘』シリーズ(全九巻+別冊一巻)はノンフィクションとして、松本清張が資料を調べて日本の事件の裏側に迫ったルポルタージュとして面白かったです。2.26事件が中心になるのですが、その外に文芸(文学)記事などもあって、「松本清張ジャーナル」という感じだった。
たぶんそれは正統な歴史ではなくあくまでも松本清張が推理した日本の闇社会だとは思うが、細部よりもだいたいの構造がそのようなものなのかと理解できる。ジャーナリストとしての松本清張は、立花隆のさきがけとして存在するのではと思う。その松本清張を批評したところから立花隆は書いている(『共産党の研究』とか)。
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