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読書とは何か(その1)

『手紙、栞を添えて』辻邦生、水村美苗 (ちくま文庫)

四季折々の移ろいのなかで、互いに面識のないふたりの小説家が、文学への深い愛情をこめて、濃密に織りなした往復書簡集。幼少時代の読書体験から古今東西の名作へと、縦横無尽に話題は広がり、繊細な感受性とユーモアを交えた文章で、文学の可能性を語りあう。本を読むことの幸福感に満たされた一冊。
目次
最後の手紙
なぜ恋愛小説が困難に?
言葉、そして文学への恋
幼少の頃の読書の祝祭
天下の剣豪小説『宮本武蔵』
読書の“小魔窟”の中で
『若草物語』と女の子の魂
物語が持つ魔術的一体性
ジェーン・エアの高らかな自由への意志
男女の顔が欠落した風土〔ほか〕

前略、みなさま方。前回の続きです。

二人の作家はそれまであまり読んでこなかったわけですが(水村美苗は『続 明暗』がイマイチだった印象です。辻邦生は趣味が違っていたような)、二人の作家の読書遍歴は面白かったです。少女小説(今はこういう言い方はないと思いますがそういうニュアンスの小説)で攻めてくる水村美苗に対して防戦一方かと思ったら、エミリー・ブロンテ『嵐が丘』でスピノザをかましてくる辻邦生。

そうなんだよな。最初の読書で女子と男子では違ってきてしまうのはどうしてなんでしょう。それでも水村美苗は『宮本武蔵』の活動時代劇の面白さを伝えていた。私も最初に繰り返し読んだのが活字ではなかったけど、白土三平『カムイ伝』でした。その影響が今でもあるんだと思うと最初の読書はあなどれません。

『若草物語』は原作よりも映画で観ました。辻邦生は1949年版なのかな?私はずっと新しく2019年版でした。タイトルも『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』となっていて、4姉妹がオールキャストだったような。ジョーがシアーシャ・ロナンですが、一番印象深かったのはフローレンス・ピューのエイミーでした。フローレンス・ピューは『レディ・マクベス』(『マクベス』夫人)にも出ていて好きな女優になりました。映画の話になるときりがないのでこのへんで。

ブロンテ姉妹も水村美苗は最初姉の『ジェーン・エア』を書いたシャーロット・ブロンテを取り上げたのですが、それほど話は進まず(いやむしろ妹の話に進んで行ったのか)『嵐が丘』で盛り上がりました。私も同時期に両作品を読んでいたのですが『嵐が丘』はケイト・ブッシュの音楽のイメージでぶっ飛んでいたのでした。

ヒースの荒野を彷徨うヒースクリーフは衝撃でした。その前にヘッセ『荒野のおおかみ』を読んでいたからかも知れません。そういえば「おおかみ」も中学時代に読んだ『シートン動物記』の「狼王ロボ」が強くイメージ化されていたに違いないのです。

そして樋口一葉は高橋源一郎『官能小説家』からその後に一様ブームが来て二千円札の肖像になったような。あの2千円札はどこに行ったのでしょうね。沖縄に行ったときに一万円札の釣り銭で貰ったあの二千円札ですよ。たぶんどこかの本の栞として挟んで入るのだと思います。

でも最初に『たけくらべ』を知ったのは『魔法使いサリー』だったような。TVでの影響ってけっこうありますね。『アルプスの少女ハイジ』もTVアニメで思い出します。

ただ水村美苗は原文の文語体がいいとする原典主義者だけど、私はそうは思わないです。それと言うのも樋口一葉がブームになったときに若手作家が現代語訳にチャレンジした。そういえばノーベル残念賞の多和田葉子も挑戦してました。最近では、川上未映子が池澤夏樹=個人編集 日本文学全集『樋口一葉 たけくらべ/夏目漱石/森鴎外』で現代語訳に挑戦していたけど、けっこう素晴らしいと思いました。無論それも原作も読むと素晴らしいと思うのですが、そのとっかかりは翻訳でもいいし、映画でもいいと思います。文学を楽しむことなら翻訳も原典主義だと辛いものもあります。まあ、大江健三郎のように再読するときに原典に当たるというのはいいのかもしれないですけど、なかなかその時間が取れないというのが正直なところではないのでしょうか。

あと水村美苗が海外にいたから日本の小説に飢えていたというのは、そういう経験がないのでわからないけど、それでフランス文学よりも英米系の作家の本を今でも読むというのはどうなんだろうと言うか、私はフランス文学の方が好きだったから、アメリカ文学だったら、SFとかメタフィクション系の作家であまりマーク・トゥエインとかイギリスだったらディケンズは読んで来なかった。最近になって読んで面白いとおもったのですが、ストーリーテラーよりはメタフィクション系の方が好きだったのかもしれないです。

フローベル『ボヴァリー夫人』も二十歳ぐらいで読んで感動してました。当時の新潮文庫100冊とかに入っていたと思います。最初に海外文学を読んだのもそんなところでしたから。とりあえず前半までの感想を。


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