(詩)ツーショット
今ではもう
うまく思い出せない
あなたの顔も
あなたの涙も
あなたと出会った
日のことも
そして
あなたを見失った
あの日のことも
あなたと並んで見ていた
海のしおざいの響きさえも
今ではもう
うまく思い出せない
なのに
たった一枚の写真
目にしただけで
遠い過去の記憶
あざやかに
思い出してしまう
なんて人は
かなしい生きもの、なのか
あの日
ふたりの写真を
通りすがりの誰かに
撮ってもらったけれど
本当は
海の景色だけ
撮っておくべきでした
もうあなたのいない海岸に
ひとり
ぼくがたたずむことも
もうふたり並んで
見つめることのない海を
写真の中の
あなたとぼくが
いつまでも
並んで見ていることも
どちらも今は
ぬけがら、でしかないのに
昔はじめてカメラを
目にした人たちは
写真を撮られると
心まで吸い取られると
思ったそうだ
けれどそれは案外
まちがいじゃ
なかったのかもしれない
過ぎ去ってゆくとしつきを
写真の中に
閉じ込めようとして
うまく綺麗に
閉じ込めれば
閉じ込めるほど
けれど人は
かなしくなった
余計なことまで
想い出して
しまうようになった
この世界で
最初にカメラを作った人は
多分夢にも
想わなかっただろう
写真の中に
しおざいの音さえ
残せる、と
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