(詩)ふるさと
それは
夕暮れ間近の交差点だった
まだわたしが
小学校に上がる前の
反対側にいた
母の姿を見つけたわたしは
夢中で
信号が赤になったことも
気付かずに走り出し
車の急ブレーキの音で
我にかえった
泣き出したわたしを
心配そうに取り囲む
人々の前で
けれど母は
わたしをしかった
その時激しく
わたしをしかる母が
なぜわたしをしかるのか、
理解できなかった
あなたのもとへ
一秒でも早く行きたいと
願ったわたしを
心配してやさしいことばを
かけてくれると
思ったわたしを
けれど母は
激しくしかった
涙を浮かべながら
くりかえし、くりかえし
わたしをしかった
……ふと、
そんなことを思い出した
今あなたに抱きしめられた
夜のしじまの
ラヴホテルの一室
誰かにあいされた記憶
あいされていた
記憶があれば生きてゆける
どんなにしてでも
人は生きてゆける、
そんな気がする
それは
夕暮れ間近の交差点だった
まだわたしが
小学校に上がる前
あなたがわたしを
あいしてくれた場所が
わたしのふるさとです
あなたのふるさとが
わたしのふるさとです
たとえそこが
都会のネオン街の
さびれたラヴホテルの
一室だったとしても
あなたがわたしの、
ふるさとです
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