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掌編・短編小説

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五百から二千字程度の短い単発小説をまとめています。末尾記載の日付は初回公開日、日本語はタイトルの日本語訳です。
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2022年1月の記事一覧

Breakfast Tea.

 灯りをつけずとも明るい朝のダイニングで、きちりと身支度を済ませテーブルにつく男の肩に重…

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Requiescite in pace.

 暖炉の火に照らされたグラスと二人の男の瞳がちらちらと光る。厚手の絨毯の上にさらにブラン…

1

Il semble qu’il va pleuvoir.

 激しすぎない雨と風で心地よいざわつきの漂う窓辺のソファで、司祭がひとときのうたた寝から…

2

le matin de Noël

「……おはよう。なんじ?」 「五時半だ。珍しくちゃんと起きられたな」 「しばらく中央で真面…

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la veiled de Noël

 もう一泊していけば、と気遣わしげに見送りに出てきたシスターにくたびれた笑顔で挨拶しなが…

1

ソファで寝ているのが悪い

「シャルマン。寝てる?」 「起きているよ。随分ご機嫌斜めだね」 「ムカつくことがあった」 …

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Joyeux Halloween

 冬支度も進みつつある穏やかな日差しのある日の午後、司祭館に控えめなノックの音が響く。はいはいただいま、と軽やかに応えた司祭が扉を開いた目線の先には誰もおらず、おや、と思う間に想定していたよりも下方から声が響く。 「トリック・オア・トリート!」  見下ろし、がっちりと絡んだ視線の先の春の空のような透き通る瞳には緊張が滲みつつ、それでも期待の輝きの方が強い。 「……あっ! ハロウィーン!!」  一瞬の間を置いて自分が発したよりもよほど大きな声で叫ばれ、首から黒いマントと三角帽子

ティーカップは彼が片付ける

 手元の報告書の文字がかすみ、直後、じわりと滲む視界とともにあくびがこぼれた。時計を確認…

1

とある昼下がりの話

「おっと、水も滴る昼帰りクン、こんにちは。これは人生のアドバイスだが、シャワーを浴びると…

3

焼き立ての至福

「ただいま」  こころなしか少し弾んだ声と、柔らかな香りを連れてその男は帰ってきた。 「お…

2

in the Bed.

  Side-A  緩やかに浮上した意識がすんと嗅ぎ慣れた甘い匂いを拾う。かすかに開いた視線の…

5

とある冬の朝の巡視にて

 まだ日も登りきらない薄明るい街に一歩踏み出して、男たちはどちらからともなく寒さを訴える…

5

いつまでもかみ合わない

「サーシャ、起きて」 「んぇ、……シャルマン? ……! なんで?」 「やあ、おはよう」 「…

3

どれくらいそうしていたかはわからない

 差し込む日の明るさにくらむように目を覚ますと、見慣れてしまった天井に、嗅ぎ慣れた少し甘い匂い。またやってしまった、と重い頭を左へ向けると、そこにはいつまで経っても見慣れない整った顔の男。いつも伏せがちな目は完全に閉じられ、アレクサンドルを抱え込むように乗せられた左腕からは力が抜けて重たい。ゆっくりと規則的に上下するその肩を見て、珍しく自分のほうが先に起きたのだな、とアレクサンドルは起こさぬように慎重に体をひねる。  自分が押し退けたであろう、二人の間にわだかまる薄いブランケ