気持ちのリハビリの記録|膠原病退院後の生活【その15】 復職後一カ月『求める自由 どこにでも行ける道具がほしい』
思うように歩けなくなった。電車に乗るにも、バリアがたくさんある。バイクにも自転車にも乗れなくなった。今、辛うじてできるのは、近距離の車の運転練習くらいだ。
手段がないだけではなく、出かける体力もない。これから先は、いつ悪化するかわからないから、遠出は難しいのかもしれない。
そんな、外出や移動の自由を失ったことが、鬱々とした気持ちの原因のひとつなのだろう。
何だか監禁されているような気分。閉じ込められた部屋の中で、ずっと息を止めているみたいだ。
それで私は、無意識に、様々な移動手段を探し求めているのだと思う。
🔹スクーターと自転車を試した日
発症前、私は400㏄のバイクに乗っていた。HONDAのCL400は、昔風の円いライトと金属の泥除けとむき出しのエンジンが気に入っていた。乗りやすくてパワーがあった。その前はオフロード車のKawasakiスーパーシェルパ。その前が、最初に乗ったレーサータイプのYAMAHAのSRX400だった。
足が自由に動かなくなったので、バイクには乗れなくなってしまった。左足のクラッチが使えない。左右とも、ステップ上に足を静止して置いておくことができない。止まった時に、必要な位置に足をつけるかも不安だ。咄嗟に足をつくのは無理だろう。
お尻の下にあるエンジンの鼓動。エンジンストロークを感じながら、ギアの力で前に進む感じ。頬に当たる風。そんなものが全部、もう味わえないと思うと、とても淋しかった。
気に入っていたバイクは、マンションの階段下に放置している。金属質のフェンダーやマフラーに埃がつもり、チェーンが錆び、朽ちていく。思うよりもずっと早く、動かない機械は壊れていく。動かないバイクは、自分の体を見ているみたいで辛かった。
売るために中古バイク屋に乗って行くことさえできないと言っているが、本当は、いつかまた乗れるようになると思いたくて、そのままにしているんだよ。
週末に、知人のスクーターを借りて、試しに乗ってみることにした。車が少ない住宅地の道で、道路の端にバイクを寄せ、ヘルメットをかぶった。スタンドを外してシートに座ると、バイクは柔らかいサスペンションで沈み込んだ。エンジンをかける。懐かしい音がして、かすかにガソリンのにおいがした。
アクセルスロットを回し、走り出した。ステップに両足を載せる。ターン、一時停止の足つき。
すべて意外なほど問題なくできた。爽快だった。
スクーターはステップが広いので、足が落ちてしまうことがなかった。クラッチがなく、大型バイクのようにフットブレーキもないため、足の操作が不要だ。そして、シートが低いので両足が地面に届く。その上、スクーターのシートは幅広で安定感が高い。
うまく乗りこなせたのが嬉しくて、笑いが止まらなくなってしまった。
スクーターは、これからの移動手として、かなり有力になった。
逆に、大丈夫だと思っていた自転車は、ペダルが動くので難がある。足を真っ直ぐ回転させてこぎ下ろすのが難しかった。ペダルから足が落ちて、空回りしたペダルがすねに当たった。
練習で克服できるのかはわからないが、無理かもしれないと感じた。
バイクに乗れなくなったことよりも、自転車の方がショックだった。小さい時に身につけて、当たり前にできていた動作ができないのは、一つの能力を失ったという実感があった。
その上、私は中学の頃から自転車で旅行をしていたので、自転車への思い入れが強い。輪行できる自転車の分解組み立ては、手元が見えない闇の中でもできる。それくらいに、私は相棒を熟知していた。
彼と一緒に、知らない道を前に進んでいった。それは、私の中の真っ白い地図に色がついていくようだった。自分の足でたどりついた海岸や草原の風景がたくさん私の中にある。
もう二度とあんな体験はできないんだと思うと、辛さを通り越して気持ちがふさいだ。
🔹バイク屋に行ってみた日
スクーターに乗れることがわかったので、今日は中古のバイク屋に行ってみた。
名古屋から2ヶ月前に東京に転勤して来た若いその店員は、力が抜けていて、あまり売る気もなく、いろいろと教えてくれた。
新車価格のからくりや、スクーターの耐用年数の目安等を、数字をあげてかなり詳しく話してくれた。
私が新車を買うか中古車を買うかを迷っていると、新車の方がいいという。その店は中古車専門店なのに…。正直な物の売り方をする、いい店員だと思う。面白いのでまた行ってみたい。
その店は、なんとレンタルバイクというのをやっていて、いろんなタイプに乗れるのだった。これで試してみてから買えばいいのだ。すごい収穫だった。
文・写真🄫2023 青海 陽
🌼 次回の更新は 2023年8月11日㈮です 🌼
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