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大学デビューを3年生で。
大学3年、後期授業がスタートした。
いつもスウェットコーデ(コーデ??????)の僕は隣接する体育学部に間違えられる。
ナイキのスニーカー、ジョガーパンツにニューエラのトレーナー。キャップはナイキのストレート。リュックは35Lのバックパック。
おまけに色黒で筋肉質。これは部活をやっていたがゆえに。
どこからどう見ても体育会系な僕がゼミの研究棟に入ると二度見される。(え?そこ入るの???)
僕の研究テーマはざっくりいうと、地質学。
休日に石を探しに出かけたり、地層を見に行っている。
普段は白衣を着て岩石をいたぶり尽くしてニヤけている。
友人の車田くんはゼミの初顔合わせで「あの、ここ、ここですか?」と要らぬ勇気を出して僕を心配した。(大丈夫、僕はここで合っているよ)
断っておくと、全然優秀じゃない。
滑り止めで入ったこの学部は当初全く馴染めず、おまけに高校まで文系選択だったのに大学ではゴリゴリの理系ワールドに迷い込んでしまった。成績はいつも「C」で息を切らしながら進級してここまできた。
今でこそ、ちょいちょいやる気が芽生えて調査や研究をしているがそれは最近のこと。
人間慣れるもので、長い間水中にいるとエラ呼吸ができるようになるのだ。
先生や優秀な仲間に手取り足取り支えてもらって作ったレポートをドヤ顔で発表することもできるようになった。
留年したり休学したり学会でやらかしたり、紆余曲折ありながら残り1年半になった。
4年は前期でほぼ終わるから実質残り1年。
僕は大学デビューを敢行した。
スウェットは封印し、全身をユニクロでコーディネート。
スニーカーをローファーに履き替え、ジョガーパンツはスラックスに、トレーナーはワイシャツonニットになり、キャップは退場、ワックスが入場した。リュックは封印してお洒落なトートバックにした。顔面は取り替えられなかった。
遅咲きの大学デビュー。
僕はソワソワしながら電車に乗った。
自意識過剰になりなるべくおじさんの近くに座ろうとした。
こういう時おじさんは絶大な安心感をもたらす清涼剤なのだ。
イメチェンというのは新たな自分に生まれ変わる高揚と、いささかの不安との絶妙なバランスの上で、かろうじて僕を突き動かす。
大学の最寄り駅から歩く。すれ違う人が全員二度見していると思った。
僕は校門で体温チェックと消毒を済ませて、研究棟に入った。
ギャラリーがおらずちょっとガッカリした。
研究室に入ると車田がいた。
「よっ」と挨拶を交わし、パソコンに電源を入れる。
「あの文献どう?」
「微妙、調査方法曖昧だったし」
「まじか」
「てか今度調査どこ行くの」
「山形」
「手伝おうか?」
「いいの?」
「旅費全額負担してくれるなら」
「なんでやねん」
・・・
その日、いつも通り研究を進め、担当教授に進捗報告をして、いつも通り18時過ぎの電車で帰宅した。
教授はともかく、車田は変わり果てた僕に何も言わなかった。
気づいたけど言わないのか、仮にそうならそれはそれでどうなのか。
「迷走してるわこいつ」なのか。
それとも他人のイメチェンなど話題にする価値もないか。
次の日僕はスウェットで登校した。
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