藍色に染まりたい
高いところが好きだ。
高いところが苦手だ。
矛盾。
山に登り、雲目線から見る風景に心が踊る。
少し険しい山肌から、足元を覗くと奈落の底に落ちてしまいそう。
高鳴る胸が「きゅっ」となる。
どうせなら、空に落ちたいな。
☆
最高の快感と恐怖を同時に味わえるのが、飛行機。
上昇していくほどに、触れていたはずの町並みが小さくなっていく。
無抵抗な体が、空に落ちていく感覚。雲を突き抜け待っているのは、青一色の世界。
そんな飛行機も、夕暮れ時に乗るのが、最高。
沈み行く太陽に照らされながら、搭乗する。
西に向かう飛行機。
窓ガラスから外を見ると、空が後方から暗くなっていっているのが分かる。
青、藍色、黒とグラデーションに染まる空。
夜が後ろから追っかけてくる。
だんだんと夜に侵食されていく、空。
目の前に広がる濃い藍色を見つめていると、私もその色に染まりたくなる。
すべてを投げ出して、ただ藍色に溶け込みたくなる。
そっと、心の手をのばし、感情を何もない空間に投げ出す。
やがて、空と共に心も黒一色に染まるまで、じっと見つめ続け……。
ふと、我にかえると、窓ガラスに自分の顔が映っているのに気がつく。
黒に染まり、光に反射する顔が、いつもより少しだけ綺麗に見えるのは、
気のせいかな。
前を向き目を閉じる。
私は、私だ。
目の奥に見る世界を、藍色に染めていく。
すべてがフラットになる瞬間。
藍色に染まった私は、またここから、今日を始める。
頑張れる。
美しく染まる高い空……
ありがとう。