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読書まとめ『マッピング思考』→身軽に考え、地図をアップデートし続けよう

『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』ジュリア・ガレフ


一言でいうと

身軽に考え、地図をアップデートし続けよう



概要

思ってたんと違う、けど有意義。そんな本でした。

思考をマッピングして視える化する本かと思って「タイトル借り」したんですが、マッピングはただの比喩表現でした。

目の前の敵を倒す「兵士の思考法」ではなく、戦場全体を正確に把握する「偵察者の思考法」を持つことを勧める本です。原著名の『The Scout Mindset』はまさしくそれを指していますが、邦訳タイトル『マッピング思考』は意訳されてます。まあタイトルが「偵察者思考」だったら地味すぎて売れる気がしないですね…

また、「全体を描くスキルが身につく本」という売り文句は、正直ちょっと違うかなという感想を抱きました。全体を描くスキルの重要性と、人間が陥りがちな認知バイアス(=全体を描くことへの妨げ)の説明がメインになっています。「全体の描き方」については、あまり具体的な説明はされていないと感じました。

否定的な意見から入ってしまいましたが、内容はとても勉強になる本です。読まずに返却しようとも思ってましたが、易しい語り口で読みやすく、ちょっと読み始めたら引き込まれて全部読んじゃいました。邦訳タイトルや売り文句から生じた期待が、実際の内容とズレていただけですね。

本稿では、本書からの学びを3つ紹介します。私にとって参考になると感じた点をピンポイントで紹介していますので、全体を把握したい方はぜひ本書をご覧ください。



① 不確実でいい、アップデートし続ける

未来予測の精度が高い人は、間違いを失敗と捉えずに、自分をアップデートする機会だと考える傾向があります。自分の間違いを認めることをためらわず偉業を果たした人として、リンカーンやダーウィンの例が挙げられていました。

自分をアップデートし続けることは、白か黒かで断定するのではなく、不確実性を認めてグレーな領域で考え続けることを意味します。現実世界の不確かさに対して、白か黒かで断定するのは誠実な姿勢とは言えません。それでも「必ず成功する」「絶対にありえない」と断定してしまうのは、物事を単純化して有能感を得られるからだ、と本書では指摘しています。ある主張に対して80%の確信度で、新しい情報に触れたときに確信度を増減させるような、柔軟な思考を持ちたいですね。

また、不確実なことを伝えるときの3つのルールは、覚えておきたいと思いました。ただし、これらは伝えたいメッセージに対する補足なので、補足が多すぎて言い訳がましくならないように、用法用量を守りたいところです。
・確実なことが言えない理由を伝える
・根拠となる数字を示す(確実なデータではないことを明記)
・手厚くフォローする



② 未来から、現状に戻りたいか考えてみる

人は「動機のある推論」をしがちです。信じたい結論ありきで、自分に都合のいいデータばかりを集めて推論してしまうものです。SNSでのエコーチェンバー・フィルターバブルも、「動機のある推論」を助長することが多いですね。

動機が変われば考えも変わります。コップに水が半分しかないと考えるか、まだ半分もあると考えるか、の違いですね。どちらかに偏って考えるではなく、コップには水が半分ある、という事実を正確に把握しようと努めることがマッピング思考です。

本書に掲載された思考実験の中で、現状維持したいという動機によって判断が歪められていないかをテストする方法が印象に残りました。ある変化を迫られているとき、すでに変化し終わった状態をイメージして、そこから現状に戻りたいかを考えてみる方法です。例えば、地元を離れて転職するかどうか判断するとき、すでに転職した状態をイメージして、そこから地元に戻りたいと思うかを考える、という形です。転職などの重要な判断だけでなく、運動や勉強の習慣化にも使えそうですね。



③ 思考とアイデンティティを分ける

本書では、アイデンティティを軽くすることを勧めています。アイデンティティを強固であればあるほど、意見を変えないことが自分を守ることになり、クリアで柔軟な思考の妨げになるからです。①でも書いたとおり、自分をアップデートすることは、決して恥ずべきことではありません。

特に、ある考えに同意することと、それを自分のアイデンティティにすることを混同しないように警鐘を鳴らしています。本書では「思考のアイデンティティ化」と表現されていました。「私は○○論者だけど、それに意味を見出せなくなったらやめる」くらいの一定の距離感を持つべきだとしています。欧米の就職観と通じるところがありそうですね。日本においては、仕事や会社がアイデンティティ化することも多いように感じます。

アイデンティティの硬直を防ぐためには、身を置く環境を選ぶことが重要です。敵に囲まれていると感じれば、自分を守るために考えが凝り固まってアイデンティティになりやすくなります。一方、周りが同じ意見の味方ばかりだと、異なる意見を知る機会がありません。多様な考えを持つ人と接し、お互いを理解しようとすることが、マッピング思考につながると考えられます。

意見を変える心の準備ができていることを表明するのもいい手段になりそうです。オンラインコミュニティChangeAView.com(私の意見を変えてください・ドットコム)では、投稿者が変えたいと思っている意見を提示し、他の参加者がそれに反論する形で議論が始まるそうです。投稿者が自分の意見に対する反論を許している(むしろ望んでいる)ところが、「論破」の一語で議論を強制終了しようとする風潮とは真逆で、おもしろいですね。



参考

「現実を直視する」ことの重要性を説いた本です。



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あんぱんだ | 視える化推進エンジニア
いつも図書館で本を借りているので、たまには本屋で新刊を買ってインプット・アウトプットします。

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