またしても日本の学校教育、大丈夫?ー日本人科学者が中国に流出するわけ
(2022年9月2日付朝日新聞から。上海・復旦大学に移った服部素之教授へのインタビュー記事「日本人科学者 なぜ中国へ」から)
ここにも変わらない日本型教育体制の弊害が現れている。教授によるとアメリカでも中国でも博士号取得後の若い世代が、次々と自分の研究室を持つような状況にあるのに、日本では「でっち奉公」が長いそうだ。研究室が持てるようになるには、さらに10年ほど余計にかかる場合があるそうだ。
これでは30代40代の早く研究したい研究者は、研究できる環境を求めて海外に流出してしまう。なぜ今中国なのか、は、アメリカ帰りの研究者が幹部に就くようになったため「米国式」の運営が取り入れられており、若手の自主性を重んじ、日本より早く研究室を任せるからなのだそうだ。
年収は日本と大差ないらしいが、研究室立ち上げ時の支援は6年分1億円強が用意されたそうである。日本政府の進める「選択と集中」で、研究費が一部の大学や研究だけを支援するようなケチなやり方とは大いに異なる。
さらに中国では、自分の価値を高めるために大学院への進学者が多く、競争率も高い。就職時にはその専門性が企業により評価されるため、給料も高いそうだ。修士か博士かで新卒の給料が2倍も違うこともあるとか。これはアメリカでも同じである。大学院生がoverqualified 資格過剰などと言われる日本の状況のなんと惨めなことか。
大学院卒やポスドクの不安定な雇用状況を改善しない限り、海外への頭脳流出は続き、日本の研究力の低下に拍車をかける。「科学立国日本」(かつてそう呼ばれたこともあったけど)は凋落の一途を辿ることになる。いや統計の上ではかなり落ちているのが歴然としている。
論文数、研究開発費総額の比較では、日本は中国に相手にならないほど差をつけられている。なのに、日本社会では中国の科学技術力を「下」に見る空気があると言う。これは戦前からある日本のアジア蔑視の意識が根強く存在しているからだろう。
もうかつてのような経済力もなく、国際政治力などサラサラなく、膨大な赤字国家なのだから、アジアのリーダー気取りはやめて身の丈にあった国家経営をした方が良いと思う。
まずは、文科省の設計した教育制度の見直しが必要なのではないだろうか。国家が決めた教材を国家が決めた教育方法でしか提供できない硬直した現状。市民意識、政治意識を育てようとしない日本の教育制度では、21世紀を生きるために有益な知性や知恵・スキルを授与できないからだ。人造りは重要な事業だ。「人は石垣、人は城」と言うではないか。
服部教授は「高い山ほど裾野が広い」と言っている。科学の発展には研究者の総数や広がりが重要であると。
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