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第174回:「倖せ」の意味は、不思議な恋が教えてくれる(葉月文:『この世界からまた君がいなくなる夜に』)

こんにちは、あみのです!
今回の本は、葉月文さんのライト文芸作品『この世界からまた君がいなくなる夜に』(メディアワークス文庫)です。以前紹介した『ホヅミ先生と茉莉くんと。』シリーズの作家さんの新刊です。

今回はライト文芸レーベルからの作品ということで、より葉月さんの魅力が出ていた1冊だったと思います。『ホヅミ先生』シリーズのようなラブコメもあれはあれで好きでしたが、葉月さんの作品はやっぱり純愛ストーリーが1番合いますね。

あらすじ

限られた時間を愛おしく想う、二人が紡いだ恋の物語。
 命の寿命を色で感じ取ってしまう女子高生の藤木六華はある夜、春風歩と名乗る青年と出会う。夜の散歩が趣味だという彼は誰もが持つはずの命の色を持たず、そんな歩の不思議な雰囲気に六華は興味を持ち惹かれていく。
 だが、ある日、町で見かけた彼はいつもと様子が違った。六華のことを覚えておらず、青色の命を纏い自分を”翔”だと告げ――。
 やがて明らかとなる、歩の切なく残酷な秘密。それを知ったうえで、二人は限りある時間で奇跡のような恋をする。

カバーより

感想

今作は特定の時間にしか会えない歩との恋を通して、主人公の六華が本当の「幸せ(倖せ)」とは何かに気付くロマンティックなストーリーでした。

まず六華と歩は独特な事情もあってか、スキンシップよりも「言葉」を大切にしたお付き合いをしていた印象を受けました。
毎日の会話を重ねてゆっくりと愛情を深めていく2人からは、言葉に優しい心がこもっていれば「好き」という気持ちは充分相手に伝えることができることを実感しました。

歩の弟・かけるの協力もあって叶った六華の恋も、やがて終わりの瞬間が訪れます。期限付きの恋で立華が知った「ほんとうのさいわい」。それは愛しいと思える人がそばにいること。誰かがいて初めて得られるものということから、作中ではにんべんのついた「しあわせ」という言葉もよく使われていました。

夜が明ける瞬間を歩と過ごしたことも、深夜に食べたカップラーメンの味も、人生で大切なことを学んだ映画鑑賞も、歩が教えてくれた美しい景色たちは、立華にとって忘れられない思い出になりました。誰かを好きになることで、世界の見方が変わる。本当にその通りだと私も思います。

そもそも歩が既に亡くなっている人物ということもあり、彼との別れが近いことは六華も気付いてはいたのですが、それでも重ねてきた思い出が多い分、別れの時の悲しみは大きかったと思います。

歩との別れの時、今まで積み重ねてきた思い出たちがぶわっと蘇るシーンからは、六華にとってどれほど歩との別れが悲しいか、彼のことを愛していたのかがよく伝わってきました。私も六華の数々の思い出をここまで見てきたので、ラストシーンは彼女と似た気持ちになって読んでいました。

また葉月さんの既刊を彷彿とするような要素も作中には多く、初期から葉月さんの作品を読んでいる私としてはちょっと嬉しくなるシーンもありました。(今作の温かな世界観に惹かれた人は、ぜひ電撃文庫の方の作品たちもおすすめします!)

今作も読んだ人が優しい気持ちになれる仕掛けがいっぱい詰まった物語で、1本の映画を見たような感動を味わえた作品でした。ライト文芸でも葉月さんの作品をもっと読んでみたいですね。


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あみの
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